2013年2月8日金曜日

税制改正大綱残された課題(下)慶應義塾大学教授土居丈朗氏(経済教室)

2013年2月1日付日本経済新聞朝刊掲載記事【経済教室「税制改正大綱残された課題(下)」】(慶應義塾大学教授土居丈朗氏)は皆様にとって興味ある記事と思い以下紹介いたします。
 

法人課税下げ、道筋早期に 地方税の見直し急務 産業空洞化回避に不可欠
 
 
ポイント
日本の実効税率はアジア諸国大きく上回る
法人税減税は従業員などに広く恩恵が及ぶ
減税でも内部留保増えるだけとの見方誤り



 2013年度税制改正大綱では今後の消費税増税をにらみ所得税、相続税、自動車関連税制の改正が目立った。法人税制に関しては「成長と富の創出の好循環」を実現すべく、(1)生産設備への投資額を一定以上増加させた場合、新たに取得した機械・装置について特別償却・税額控除を可能とする生産設備投資促進税制の創設(2)既存の研究開発税制では税額控除上限額について法人税額の20%から30%への拡充――が盛り込まれた。
 

 今般の税制改正では、国内での設備投資へのインセンティブ(誘因)を高めることで、経済の底上げや産業競争力の強化を図ろうとしている。確かにこうした施策もその一助になろうが、やはり法人実効税率の引き下げに一層取り組まなければ、現状打開にはつながらない。今回の大綱はこの点について課題を残した。
 
 法人税は今年度から税率が引き下げられたが、復興特別法人税が3年間課税される。その期限が終わると日本の法定実効税率は35・64%に低下する。しかし、日本企業の国際競争の相手であるアジア諸国の法人実効税率は25%前後で、なお大きな差がある。
 
 加えてアジア諸国では社会保障制度が未整備のため、社会保険料の雇用主負担が日本より少ない。たとえ日本企業が同額の利益を上げたとしても、日本を拠点とする方がより多くの税と保険料が課され、税引き後利益は減る。法人税制は、ビジネスの拠点をどこにするかを決める重要な要因の一つとなっている。
 
 法人税を減税しても、労働者や消費者には何の恩恵もないと思う人もいるだろう。しかし実際には、法人税減税は国民各層に広く恩恵が及ぶ。
 
 そもそも法人税は「法人」なる怪物が負担するものではなく、企業に関わる従業員、経営者、株主、顧客など生身の人間が間接的に負担するものだ。もし法人税負担がなければ、もう少し給料を上げたり、配当を増やしたり、製品の販売価格を下げたりできたであろう。法人税課税に伴い、従業員、経営者、株主、顧客が税負担を分かち合っているのである。
 
 基本的には、企業が上げた付加価値の分配に応じて税負担を分かち合っていると考えられる。日本の労働分配率は約70%だから、短期的には法人税の約7割は従業員給料総額の減少の形で負担されているとみられる。換言すれば、法人税を減税すれば、そのかなりの部分が従業員給料総額の増加に回るといえる。
 
 このように、法人税の減税は広く恩恵が及ぶ可能性がある。国内での雇用を確保するためにも、国内で活動する企業への課税を抑制することが求められる。今後の税制改正では、法人実効税率をどのように引き下げていくのかについて、その道筋を具体的に示さなければならない。その中で国税については法人税率のさらなる引き下げが必要だ。
 
 それより優先すべきは、地方税での法人課税(法人住民税と事業税)の減税である。好不況の影響を除けば、法人課税は地方税収の20%に達する。先進国の中で、わが国ほど法人課税に依存した地方税制を持つ国はない。この点は看過できない。
 
 地方税は、住民に近いところで公共サービスを提供する自治体が課税するので、本来公共サービスの便益に応じた税負担が求められる。その観点からいえば、公共サービスの便益を受けるのは生身の人間であり「法人」ではないのだから、法人課税は地方税制にはなじまない。
 
 そのうえ地方税制では、国の法律である地方税法で定める標準税率より高い税率で課税すること(超過課税)が認められており、全都道府県が法人住民税または事業税を超過課税している。一方、個人住民税の超過課税は31県しか実施していない。このように、本来は公共サービスの便益を受ける住民に個人住民税で負担を求めるべきなのに、そうではなく法人課税をより重くしているといえる。
 
 地方自治体の課税自主権は尊重すべきだが、地方税としてふさわしくない法人2税を重課することは適切でない。国民は法人2税で超過課税する自治体に対し、少なくとも超過課税をやめるよう積極的に働きかけるべきだ。それが容易でないなら、地方税法で法人2税について定める税率の上限(制限税率)を引き下げることも検討すべきだ。
 
 また、機械設備を多く持つ企業は、法人課税とは別に、地方税として償却資産に対する固定資産税が1・6兆円課されている。これも企業にとっては固定費用的な負担となり、わが国で収益を上げるうえで足かせとなっている。
 
 本来、固定資産税を土地などの「不動産」に課すならば、応益的な課税といえる。例えば道路整備でその土地の利便性が高まれば、土地を持つ者は便益を受ける。だから、便益に応じて税負担を求めるには、動かない土地に課せばよい。だが償却資産は「動産」だ。リース可能な機械類が典型的だが、いつでも場所を動かせる。地域を越えて動くものに、土地と同様に税を課すのは、応益課税とはいえない。
 
 法人2税や償却資産に対する固定資産税を減税すれば、企業活動は促進される。ただ、財政難の折、代替財源を考えず減税だけを主張するのは無責任だ。これらの税を軽減する代わりの財源としては、本来は個人住民税や土地に対する固定資産税が妥当だ。しかし政治的に早期実現が難しいのならば、一時的には、企業活動に影響を与えにくい形で法人住民税の均等割で代替するという方法もあり得よう。
 
 こうした法人に対する税負担の軽減が実現すれば、減税分が従業員給料の増額などの形で、人への投資にも振り向けられるだろう。しかし世上では、法人税を減税しても、企業は内部留保を増やすだけで従業員給料を増やさないとの見方もある。日本企業が2000年代を通じて内部留保を増やしてきたことも背景にあるのかもしれない。
 
 もし企業が不適切に内部留保を持っていれば、株主から配当で支払うよう要求されるだろう。それでもなお多くの内部留保を持っているのは、株主もそれなりに是認しているからだといえる。また、内部留保、負債、新株発行という資金調達手段の中でコストが最も低いものから選ぶとする企業金融の理論に基づけば、内部留保はコストが低いから多用されたといえる。日本企業が内部留保を増やしたことは妥当な判断と考えられる。
 
 一方、企業の貸借対照表の資産側で増えたのは、国内の生産設備を含む有形固定資産よりも、長期保有を前提とした投資有価証券だ。自ら設備投資をするより、新興国などの成長を取り込むべく国内外の企業を買収した方が、収益を伸ばすのに効果的だという経営判断が背景にあると考えられる。企業は必要があって内部留保を増やしたのだ。
 
 また、内部留保が増えていた時期に、非正規雇用が増えたという批判もある。しかし労働分配率は中長期的に約7割で推移しており、企業が得た付加価値を人件費に回すことを怠ったわけではない。
 
 このように法人税を減税しても内部留保が増えるだけというのは間違った見方だ。むしろ法人課税を軽減することで、日本国内で人を雇って活動する企業の国際競争におけるハンディキャップを小さくすることが求められる。
 
 法人減税の恩恵が従業員に広く及ぶようにするには、社会保険料の雇用主負担の適正化も必要だ。正規と非正規雇用で負担が異なると雇用形態もゆがむ。これは雇用主負担を消費税に代替できれば解消できる。政府は経済成長を促すためにも、法人課税軽減への道筋を早期に示すべきだ。
 
 どい・たけろう 70年生まれ。大阪大経卒、東京大博士(経済学)。専門は公共経済学



2013年2月7日木曜日

税制改正大綱残された課題(上)一橋大学教授佐藤主光氏(経済教室)

2013年1月31日付日本経済新聞朝刊掲載記事【経済教室「税制改正大綱残された課題(上)」】(一橋大学教授佐藤主光氏)は皆様にとって興味ある記事と思い以下紹介いたします。

 


所得税、「広く薄い課税」に 各種控除、廃止・縮減を 世代間・世代内の公平カギ

ポイント
 ○
所得税は手厚い控除により「空洞化」が深刻
 ○
財源調達や所得再分配などの機能回復急務
 ○
給付付き税額控除や共通番号の導入も重要


 1月24日にまとまった2013年度税制改正大綱の主な改正点としては、15年からの富裕層に対する所得税の増税が挙げられる。具体的には課税所得4千万円超を対象に、最高税率が現行の40%から45%に引き上げられる。

 わが国の所得税は、給与・事業所得や年金などへの総合課税と、利子・配当など金融所得の分離課税に大きく分けられる。今回の改正は前者の税率構造の見直しにあたる。

 総合課税では原則、給与など課税対象となる収入から各種控除を差し引いて課税所得を算出し、これに累進的に課税をする。ここでいう累進的とは、課税所得をいくつかの所得区分(ブラケット、現行6区分)に分け、高い課税所得の区分ほど高い税率(限界税率という)を適用することを指す。現在の最高税率40%は課税所得1800万円超の区分に課せられている。

 所得税についてはこれまで(1)最高税率を含め限界税率の引き下げ(2)低い税率の適用範囲(所得区分)の拡大(3)給与所得控除など各種控除の拡充による課税最低限の引き上げ――が進められてきた。そのため、所得再分配機能や財源調達機能が低下している。

 今回の改正はこれらの機能の回復に向けた所得税の正常化には程遠い。本稿では、所得税の残された課題と再構築の在り方について述べたい。

 たとえ最高税率を45%に引き上げても大きな税収増は見込めない。増収額は600億円に満たないとみられ、現行の所得税収(11年度は13・5兆円)の0・5%にも届かない。ここに所得税の「空洞化」の問題がある。

 課税所得に対しては、人的控除(基礎控除、配偶者控除など)のほか、給与所得控除・公的年金等控除、社会保険料控除など、政策的な配慮も反映して手厚い控除が施されてきた。その結果、課税所得は著しく浸食されている。12年度でみると、給与収入などの総合課税の対象となる収入が約250兆円に対し、所得控除後の課税所得(課税ベース)は約110兆円にすぎない。

 つまり、すべての課税所得に対する税率を一律1%上げても、税収の増加は1・1兆円程度にとどまるということだ。これは消費税1%あたりの税収(約2兆5千億円)の半分以下にすぎない。所得税の財源調達機能を損なってきたのは、最高税率よりも課税ベースの狭さだ。こうした状況で累進性を高めても、狭く偏重した課税のままになる。

 筆者は、この課税ベースの拡大が急務だと考える。具体的には、生命保険料控除などの政策的控除や社会保険料控除を廃止もしくは縮減するとともに、基礎控除・配偶者控除などの人的控除および給与所得控除も必要最小限に抑えることが必要である。

 給与所得控除については、11年度税制改正大綱で1500万円を超える給与収入にかかる控除に上限(245万円)を設定する方針が示されたが、さらに抑制する余地はある。もともと同控除には「勤務費用の概算控除」に加えて、「他の所得との負担調整」という性格がある。後者は自営業など他の業種との所得捕捉の格差、いわゆる「クロヨン問題」への配慮ともいえる。だから、手厚い控除を残すのではなく、所得捕捉の強化など、クロヨン問題の是正をするのが筋だろう。

 併せて公的年金等控除も大幅に見直す必要がある。社会保障と税の一体改革では、社会保障の費用をあらゆる世代が広く公平に分かち合う観点から、消費税の増税となった。しかし、所得税においては世代間の負担の公平が図られていないことが問題だ。その一因は公的年金等控除などによる年金への優遇にある。

 課税ベースの拡大は単なる増収が目的ではない。むしろその狙いは、給与所得控除や公的年金等控除の内にある政策的(政治的)配慮を是正して、課税所得の定義を客観的・経済合理的にすることにある。そのためにも所得控除は実態に即した水準でなければならない。様々な政策目的のために改正し続けた結果、制度が複雑化している状況を解消することにもつながる。

 仮に経済合理性に即した(少なくとも、それに近い)課税所得を定義できれば、これは国税にとどまらず、地方税を含む他の所得課税にも適用されてしかるべきだろう。地方の所得課税としては個人住民税(所得割)がある。所得税と個人住民税の間では基礎控除などの所得控除の金額が異なることから、課税所得は一致しない。さらに所得税はその年の所得課税であるのに対して、個人住民税は前年所得に課税する。これを新たな課税所得に統一することを提案したい。

 「地域社会の会費」(応益課税)としての個人住民税は、その目的が異なる以上、所得税と課税ベースが異なるのは当然との主張もありそうだ。しかし課税所得の一貫性は、納税者の利便性および税制の簡素性の原則にもかなうだろう。再分配機能や応益課税など制度間での理念の違いは、累進課税か比例税かという税率構造に反映させればよい。

 再分配の観点からみると、最高税率の引き上げは必ずしも再分配機能の回復にはつながらない。第一に、富裕層からの所得税が低所得層に所得移転されなければ再分配は完結しない。課税の強化と併せて、後述する給付付き税額控除のような所得移転の充実が求められる。

 第二に、所得控除は高所得者に有利に働くことがある。例えば課税所得から10万円を差し引く所得控除では、限界税率10%の納税者ならば1万円の減税にすぎないが、最高税率40%の所得区分にあたる納税者にとっては4万円の減税になる。概して所得控除は課税の累進性を弱める。

 一方、納税金額から定額を差し引く税額控除であれば、減税額は課税所得によらず一定となる。所得控除から税額控除へ移行することで、課税ベースの拡大により財源調達機能を確保するとともに、再分配機能を高めることが可能になる。こうした移行は諸外国でもみられる。例えばオランダでは、所得税改革(01年)で既存の所得控除をすべて税額控除に改編した。

 さらに給付付き税額控除の導入により、課税最低限以下の低所得者に対して税額控除ができない分を給付すれば、所得税制の枠内で再分配は完結する。給付付き税額控除は消費税の逆進性対策だけでなく、若年層を中心とした低所得者支援、子育て支援、就労支援にも効果が期待できる。

 社会の高齢化など新しい経済環境に適応するとともに、経済の成長を支えるためにも、一部の所得層や世代に偏った課税から「広く薄い課税」への転換が必要である。まず、政治的配慮を除いた広い課税は、世代間・世代内の公平にかなうだろう。また、税率の水準を抑えた薄い課税は、投資や勤労の誘因を阻害しない。そして、給付付き税額控除は低所得の勤労世帯への新たなセーフティーネット(安全網)になる。

 無論、クロヨン問題など所得捕捉の公平が確保されていないとの異論もあろう。だからといって課税を避けるのではなく、これらを是正する措置を講じるのが改革の本筋だろう。そのためにも徴税のインフラ整備が欠かせない。

 今回の改正では見送られた社会保障と税の共通番号(マイナンバー)の導入はその一環だ。正しい所得捕捉は税収の確保や所得税に対する納税者の信認につながる。マイナンバーは、給付付き税額控除の実効性を改善するほか、社会保障などの給付資格・水準の決定にも使える。他の政策にも波及する、いわば公共財的な性格を持つものとなる。

 さとう・もとひろ 69年生まれ。カナダ・クイーンズ大博士。専門は財政学

2012年10月10日水曜日

環境税導入を契機に、再度、個別消費税を考える!  その3(最終回)


環境税は、消費増税です!



前回のブログ記事(その2)から、多くの方は石油諸税の金額の大きさにビックリしたと想像します。普段、私たちが買い物などの際に、価格の5%(消費増税後は10%)の消費税を負担します。これを一般消費税と呼びます。更に、個別消費税と呼ばれる消費税があります。これは、ある特定の物やサービスについてのみ課税される消費税です。石油諸税は、個別消費税に分類されます。石油諸税以外で個別消費税に分類される税金がいくつかあります。それは、酒税、たばこ税等です。

石油諸税、たばこ税、酒税などの個別消費税の取扱いについて、国税庁のホームページから抜粋します。
【消費税の課税標準である課税資産の譲渡等の対価の額には、酒税、たばこ税、揮発油税、石油石炭税、石油ガス税などが含まれます。これは、酒税やたばこ税などの個別消費税は、メーカーなどが納税義務者となって負担する税金であり、その販売価額の一部を構成しているので、課税標準に含まれるとされているものです。】

税法の書き振りでは、多分、意味が良く判らないと思います。言っている意味は、「これら個別消費税は、購入した製品の原価の一部として取り扱い、物の原価と個別消費税の総計に対して一般消費税を課す」の意味です。このことは、個別消費税に一般消費税が課せられること(Tax on Tax)を意味します。前回のブログ記事(その2)で使用した例「ガソリンの価格1リットルあたり140円、これを50リットル給油したとして、ガソリン代7,000円プラス消費税(10%)700円の7,700円」を利用して、Tax on Taxを説明します。

 
Tax on Taxの取扱いは、心情的に受け入れがたいですが、租税法律主義の観点からは、止むを得ないと考えます。個別消費税がなくなれば、Tax on Taxの取扱いは発生しません。そこで、個別消費税について検討いたします。


一般消費税と個別消費税のちがい

一般消費税の場合は、税法に非課税とされるものを定めなければ、すべての製品・サービスが課税の対象となります。ですから、現行の5%でも一般消費税の税収は、12.8兆円になります。10%への消費増税後の一般消費税の税収は、26兆円前後になります。徴収する立場からは、ほとんどすべての製品・サービスが課税の対象となる一般消費税は非常に効率的です。
個別消費税について検討します。課税ベースの広い一般消費税に比べて個別消費税の場合には、法律に課税対象を定めなければ課税の対象となりません。ですから、課税対象を定める必要があります。ここから個別消費税の問題点が浮かび上がってきます。
 l  特定の製品・サービスを個別消費税の対象にする場合、対象にする理由が必要です。石油諸税が課されている主な理由は、道路を建設して社会インフラを充実させることでした。税金の使い道が特定されていることは、その予算の執行は監督官庁に任されることを意味します。その結果、特定の製品・サービスの許認可権を握る監督官庁は、強力な権益を手にすることができます。予算消化のため不要な工事をするというような税の無駄遣いが発生する余地があります。
 l  次に、課税の公平という観点から、生活必需品やそれに準じたものを個別消費税の課税対象から除外すべきであり、奢侈性の高いものほど税率を高くすべきであるという考え方があります。この考え方に同意しますが、具体的に何が奢侈性の高いものであり、何が生活必需品であるかを判断することは意外に難しく、恣意的な決定などを導きやすいです。政治的な理由などにより、新たな製品やサービス、とくに奢侈的なものを課税対象にし難いことが多いです。実際の個別消費税は、酒税、たばこ税、揮発油税、石油石炭税、石油ガス税、そして今回導入される環境税です。左記の個別消費税の課税対象は、皮肉にも、個別消費税の課税対象から除外すべき生活必需品やそれに準じたものです。


個別消費税はこれからも必要か

 前節で議論した個別消費税の問題点、Tax on Taxが生じることを是とする税法の取扱いは、一般消費税が5%であれば許容されたものであったかも知れません。しかし、10%への消費増税の後、一般消費税による歳入金額は、12.8兆円から26兆円前後になります。このような多大な増税による国民負担を強いている時に、課税対象に問題のある個別消費税とTax on Taxが生じることを是とする税法を不問に付して、現状維持を図ることは認められないと考えます。
 
消費増税の下、個別消費税のひとつである環境税が導入されます。環境税の使い道について、国民不在・霞が関の論理優先が垣間見られます。新聞報道によれば、【環境税で生まれる新たな財源を巡る政府内の駆け引きも始まっている。2013年度税制改正で農林水産省はCO2を吸収する森林整備に税財源を、総務省は地方の温暖化対策への財源を求めている。ともにCO2の排出抑制策に使うことになっている環境税の使途を広げることが念頭にある。石油石炭税を繰り入れるエネルギー対策特別会計を所管する経済産業省などとの綱引きが激しくなりそうだ。】

環境税のみならず個別消費税の存続の意義を問う必要があると切に考えます。

2012年10月3日水曜日

環境税導入を契機に、再度、個別消費税を考える!  その2

環境税と石油諸税との関係は!?


ここで時計の針を20164月に進めてみたいです。20164月には環境税は完全実施され、消費増税も完全実施されて10%になっています。20164月に車を運転して、ガソリンスタンドでガソリンを給油したと想定します。その時、ガソリンスタンドの入口に示されたガソリンの価格は1リットルあたり140円でした。「オッ!これは安いぞ!」と50リットルの給油をします。代金は、ガソリン代7,000円プラス消費税(10%)700円の7,700円でした。7,700円の計算は容易くできましたが、1リットルあたり0.76円の環境税がどのように課せられているのか判りませんでした。そこで環境税の取扱いをしらべました。その結果、驚愕の事実がわかりました。


7,700円の代金の内、税金は700円ではなく3,530円もあるのです。内訳は、ガソリン税、石油石炭税、環境税(「石油諸税」と呼びます)の合計2,830円と消費税(10%)700円です。2,830円もの多額の石油諸税について検討します。

多額の石油諸税は国の歳入のどれぐらいを占めているのでしょうか。この分析を2016年の予想予算額を使用して実施することは、当該予想予算額が手許にないことから無理です。そこで、現実に戻って、この分析が可能な直近年度の数値を利用することにします。分析可能な石油諸税の内訳は、2008年度予算案から入手することが出来ました。そこで2008年度予算案の数値を利用して行います。環境税がもたらす歳入は含まれていませんが、石油諸税の全体像は十分把握できると考えます。


石油諸税の国家予算に占める割合は・・・

この石油諸税の国家予算に占める割合はどのくらいなのでしょうか。2008年度(平成20年度)予算によれば、国税収入の合計は551,399億円。内訳では所得税の29.5%、法人税30.3%、消費税19.4%に続き、石油諸税6.9%という非常に高い割合となっています。ちなみに税金を飲んでいると言われる酒税は2.8%、タバコ税2.0%、また相続税の2.8%より遥かに多いことを国民の皆様は、ご存知でしょうか。また自動車関連という意味では、自動車重量税1.9%もあるので、石油+自動車では、8.8%も負担しているとも言えるでしょう。


  

石油の税金は一体何に使われているのか


 

 石油諸税が課されている主な理由は、道路を建設して社会インフラを充実させることでした。石油諸税の歳出は、一般会計を通して大部分が特別会計に移されます。上記石油諸税の使途、道路整備4600億円は、道路整備特金から支出されます。4600億円の予算の執行は監督官庁である国土交通省が行います。今の日本で道路建設・整備に4600億円ものおカネが必要であるとはだれも考えません。それでも、毎年、4兆円近い金額が道路建設・整備に使われていました。不要不急の建設が多くあったと想像されます。このような背景の下、2009年度より道路整備特金は廃止され、それら税金は一般財源化されました。
それら税金の一般財源化は正しい方向でしょうか!? そう、とは考えません。道路を建設して社会インフラを充実させるという目的をほぼ達成した現在、その目的税は廃止すべきと考えます。4600億円ものおカネを目的外に流用することは、許されることとは考えません。更に、憲法が定める租税法律主義の精神からも反する行為と考えます。

2012年9月26日水曜日

環境税導入を契機に、再度、個別消費税を考える!  その1

環境税とは!?


 2012101日に地球温暖化対策のための税(環境税)が導入されます。ガソリンは1リットルあたり0.25円の増税となります。環境税は、10月から税負担が1リットルあたり0.25円、144月に0.25円、164月に0.26円と3段階で増えます。完全実施後は1リットルあたり0.76円の環境税が課せられます。環境税は原油や天然ガスなどにかかる石油石炭税に一定額を上乗せするものです。
別の言い方をすれば、石油石炭税の増税です。環境税は、ガソリンの原料である原油のみならず、液化天然ガス、石炭に対しても課せられます。つまり液化天然ガス、石炭を原料とする電気代、ガス代に影響があります。2012913日の日経朝刊の記事を抜粋します。

101日導入の環境税が家庭用の電気代や都市ガスなど燃料費に上乗せされると、1世帯あたり年間1200円程度の負担増になる。産業用も含め全ての製品で価格に転嫁されると、負担増は1世帯平均で年5000円程度になる。原子力発電所の停止に伴うLNGの輸入増は一段の税負担増につながる。】
 
 
 このような家計の負担増をもたらす環境税の目的について、説明が必要です。そこで、環境省の説明を抜粋します。
l 「環境税」は、税制による地球温暖化対策を強化するとともに、エネルギー起源CO2排出抑制のための諸施策を実施していく観点から導入するものです。具体的には、原油やガス、石炭といった全化石燃料に対して、CO2排出量に応じた税率を課すものです。地球温暖化の防止は人類共通の課題であり、あらゆる人に利益をもたらすものです。従って、そのための負担は、エネルギーを利用する方全体で幅広く公平に担っていくべきと考えています。
l こうした「受益と負担」の関係に着目し、温室効果ガスの9割を占めるエネルギー起源CO2の原因をもたらす全化石燃料に対し、「広く薄く」公平にCO2排出量に応じた課税を行うこととしました。
l 温室効果ガスを削減するという観点から、化石燃料やエネルギーに課税する環境税は、欧州を中心に導入が進められています。1990年には、世界で初めて、フィンランドにおいて、いわゆる炭素税が導入され、その後、スウェーデン、ノルウェー、デンマークといった北欧諸国やオランダで導入されました。現在では、ドイツ、イタリア、イギリス、フランス、スイスやカナダの一部の州でも課税されています。これらの国々では、それぞれの国の実情に応じた様々な方法で導入に至っています。

つまり、「京都議定書」で定められたCO2削減対策の一環として環境税が導入されました。しかし、経団連は、環境税を導入しなくてもCO2削減対策は十分とれるとの立場をとっています。2006年ですが経団連は、環境税のもたらす悪影響についてまとめた資料を作成しているので抜粋します。

悪影響1:家庭と企業にダメージ
「環境税」導入によるさらなるコスト増は、企業のみならず、国民全体を苦しめます。その上、経済成長を促進し、わが国経済の国際競争力を強化しなければならない中、その流れを妨げ、逆行させるおそれがあります。
原油価格の上昇はすでに社会全体に影響を与えています。さらに「環境税」が導入されれば、家庭や企業をいっそう苦しい立場に追い込みます。
悪影響2:企業の自主的な取り組みの基盤を阻害
「環境税」の導入は、日本経団連の「環境自主行動計画」の目標に向けて、中長期的視野に立ち、設備投資などに多額のコストをかけてきた企業に対してさらなる負担を強いるものです。「環境税」は企業の設備投資や研究開発の原資を奪い、これまで大きな成果をあげてきた自主的な取り組みの基盤を損ねます。今後、エネルギー効率の高い機器・設備の普及と置き換わりが進めば、2020年には世界全体で約37億トンのCO2排出を抑制できる可能性もあります。
悪影響3:地球規模での温室効果ガスが増大
わが国のエネルギー効率は世界最高水準にあります。他のどこの国に生産が移転しても、温室効果ガスの排出量増大につながります。
「環境税」導入により、わが国よりエネルギー効率が低く、「環境税」のない近隣諸国での生産活動が増えれば、結果的に地球規模での温室効果ガスの排出量増大と国内産業の空洞化を引き起こすおそれがあります。

原子力発電所の停止に伴うLNGの輸入増は一段の環境税の負担増につながることを考えると、私見ですが、「今、環境税か!?」が率直な意見です。