2012年4月18日水曜日

国家会計創設の提言 その2

特別会計とは
 財務省主計局が発行した「平成23年度版 特別会計ガイドブック」において特別会計の必要性が述べられている。その部分に記述を引用する。

【国は、その役割として外交、国防、警察などのほか、社会資本の整備、教育、社会保障など、様々な行政活動を行っており、そのための財源として税金や手数料・負担金などを集めています。国の会計は、これら税金などの収入、つまり歳入と、その使途である歳出とがどうなっているかを明らかにするものです。こうした国の会計は、毎会計年度における国の施策を網羅して通覧できるよう、単一の会計、つまり、「一般会計」で一体として整理することが、経理の明確化、財政の健全性を確保する見地からは望ましいものとされています。これを単一会計主義の原則と言います。しかしながら、現在のように、国の行政の活動が広範かつ複雑化してくると、受益と負担の関係が不明確になるなど、単一の会計ではかえって国の各個の事業の成績計算、資金の運営実績等について適切な計算、整理ができない結果となり、適正な受益者負担・事業収入の確保が難しくなることにもなりかねません。そこで、このような場合には、特別の会計を設け、保険料等の特定の歳入と特定の歳出を一般会計と区分して経理することにより、特定の事業や資金運用の状況を明確化しています。】

それでは、特別会計を設けることで、国の行う特定の事業の遂行、資金の運用状況が明確化されているのであろうか。平成23年度特別会計予算を参照されたい。

特別会計の分析
 上記平成23年度特別会計予算の内訳は、財務省主計局が発行した「平成23年度版 特別会計ガイドブック」にある情報から筆者が作成したものであり、財務省が作成したものではない。その点留意されたい。

先ず、目につくことは一般会計予算92.4兆円の約60%が特別会計に拠出されていることである。それは、歳入の「一般会計より受入(54.3兆円)」に示されている。一般会計の歳出の国債費、21.5兆円、社会保障関係費の内12.6兆円、地方交付税交付金16.4兆円、地方特例交付金0.4兆円等が特別会計に振替えられている。その結果、一般会計から直接まかなわれる予算は、教育と防衛と公共事業だけになると言っても過言でない。
次に理解し難い取扱いがある。それは、歳入の「会計間のやりとり(91.4兆円)」である。91.4兆円もの膨大な金額が「会計間のやりとり」という意味不明な勘定に計上されている。その理由を述べる。平成23年度には17の特別会計(51勘定)がある。この17の特別会計と51勘定が特別会計を判り難くしている。何故、「会計間のやりとり」という取扱いが生じるかについて、例を用いて説明する。
l  特別会計のひとつにABC特別会計があるとし、3つの勘定を持っている。
l  ABC特別会計は、歳入として税金100を予算化した。
l  勘定1では、事業予算40と勘定2の事業費60を歳出として予算に計上した。
l  勘定2では、事業予算30と勘定3の事業費30を歳出として予算に計上し、
l  勘定3では、事業予算30を歳出として予算に計上した。

特別会計の問題点
わが国の憲法は、一般会計と特別会計を区別していない。また、内閣による予算作成、国会の予算承認、決算の検査等においても一般会計と同様の取扱いがなされることが予定されている。しかし、現実は大きく異なる。率直に言って特別会計は、一般人にはわからない。そのことが問題である。例えば、国民が払う厚生年金、国民年金、健康保険料は、年金特別会計の歳入となり、年金の支払い、健康保険の支払いがその特別会計の歳出となる。年金特別会計は7つの勘定をもっている。伏魔殿(伏魔殿とは、「魔物が隠れている殿堂」、「陰謀や悪事が常に行われている所」を言う)の様相を呈していた社会保険庁が衣替えした日本年金機構(厚生労働省の外郭団体)が厚生年金、国民年金、健康保険料の管理・運営を行っている。一般人が日本年金機構と年金特別会計と7つの勘定との関係を知ることは、不可能に近いと考える。

国民は、特別会計の問題点を知らなくても直感的に、なにか公になっていない情報があるのではないかと感じている。その理由のひとつに適切な開示情報がないことである。特別会計の予算は効率的に運用されているのか、あるいは削減できる歳出はあるか否かを国民は詳らかに説明されることを求めている。国民は、既得権を手にした族議員、官僚の抵抗によって特別会計の歳出削減の話が葬り去られる可能性を大いに気にしている。国民は、予算の適正開示と抵抗勢力(族議員、官僚)を駆逐することで財政再建が可能になるとかんがえている。私見であるが、特別会計に関わる問題点を列記する。
l  17の特別会計の資金の流れは複雑怪奇で実態を把握することは、ほとんど不可能なこと。
l  ひとつの特別会計に生じた剰余金が、効率的運用されない可能性が高いこと。
l  国民による監視が不十分になって不急不要な事業が行われること。
l  国民の信頼を裏切る不正が行われる温床になること。

日本国の歳入と歳出が鳥瞰図的にわかる予算制度が必要となる。

2012年4月10日火曜日

「社会保障と税の一体改革について(2)」記事ご紹介

財務省主計局の高田英樹氏のブログ『日英行政官日記』の中で書かれた、社会保障と税の一体改革についての記事を前回に引き続き転載します。


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(前回の続き)


・なぜ「消費税」なのか、という議論があるが、消費税は、幅広い財・サービスに課税する性質から、財源調達力が高く、税収が景気や人口構成の変化に左右されず安定しており、勤労世代に負担が集中せず経済活動に与える歪みが小さいといった特徴を有し、社会保障の安定財源としてふさわしいと考えられる。
・消費税については、低所得者ほど所得に対する負担の割合が高い、いわゆる「逆進性」の問題も指摘されるが、これについては、負担と受益を合わせて考える必要がある。社会保障給付を合わせて考えると、当然、低所得者ほどネットの受益は多い。今回、消費税収を社会保障給付に充て、特に低所得者にきめ細やかに対応することは、それ自体が「逆進性」対策としての効果を持つ。
・食料品等に対する軽減税率を導入すべきとの意見は多いが、軽減税率は、「逆進性」対策としては非効率であり効果が低いことは、学問的な議論ではほぼ決着がついている。食料品は高所得者も消費するものであり、かつ高所得者ほど消費額は大きい。そのため、食料品の税率を軽減した場合、金額的には高所得者ほど多く恩恵を受けることになる。軽減税率という方法ではなく、低所得者にダイレクトにお金を渡す方が、低所得者の負担軽減策としては効率的で効果が大きい。
・「ぜいたく品」にのみ高く課税することも、その線引きが極めて困難。例えばフランスでは、キャビアは標準税率であるのに対し、フォワグラとトリュフは軽減税率となっているが、後者はフランスで生産されているからとされる。線引きを巡って政治的な利害が絡むこととなる。
・現在、いつかは消費税を上げなければならないということは多くの人が認識していると思われるが、まずは景気が良くなってから、まずはムダをなくしてから、という「条件付き」の賛成ないし反対が多い。こうした条件論の多くは真面目なものだが、もはや先送りできないところまで来てしまっているのが現実。
・増税をしなくても日本の財政は大丈夫だとの様々な「主張」も、政治の世界に相当根深く浸透しているのを感じる。ひとつひとつ反論はできるのだが、誰しも増税はできればしたくないので、それを避けられるかのような「耳に心地よい」主張の方が、はるかに伝播力が大きい。うまい儲け話に落とし穴が多いように、苦労せず財政が健全化し、社会保障が維持できるような「奇策」は存在しない。もしそんな魔法のような方法があるなら、なぜ欧州をはじめ各国が財政問題に苦しんでいるのかということになる。
・昨年末、消費税を巡る政治的な議論がピークにさしかかっていた12月28日、朝日新聞の朝刊に掲載された社説「社会保障と税 オトナはわかってる?」は秀逸であった。「ムダが多い」「政治家が信用できない」といった、増税に対する様々な反対論も、「将来世代」の視点からみれば、現世代の中で責任を持つべき話であり、将来世代に負担を先送りする理由にはならない。こうして議論を続けている間にも、国の借金は増え続け、現在の政治決定に関与できない将来世代の負担が増え続けていることを忘れてはならない。

<ディスカッションの主な内容>
・「社会保障と税の一体改革」というテーマだが、今日の説明では社会保障のウェイトが少ないのではないか。
・社会保障については次回の勉強会で正面から採り上げる。
・サザエさんの波平さんと今の郷ひろみが同じ年齢という話があるが、「高齢者」についての考え方も昔と今では大きく違ってきているのではないか。
・今は65歳を過ぎても元気な人は多く、そういう人にはむしろ「支え手」に回っていただくことを目指している。
・社会保障費の削減がもっと必要だとの考え方もあるが。
・今回の改革でも一定の効率化策が盛り込まれている。社会保障費への切り込みが足りないという意見がある一方で、逆に、社会保障充実のための増税といいながら充実が足りないという意見もあり、悩ましいところ。いずれにせよ、社会保障を増やす方は皆賛成するが、減らす方は抵抗が強く、難しい問題。
・行革については、様々な取組を進めてきており、さらに法案を提出することとしているが、増税の前提条件としてどこまでやればよいのか、どこかで最終的に判断する必要がある。
・国債は日本国内でほとんど消化されており、国内に資産として残っているから問題ないという意見があるが。
・国債が資産であることに違いはないが、それゆえにむしろ、国債が暴落すれば、それを保有している国内金融機関は大きな損失を被り、金融危機に陥るおそれがある。たしかに、国債の元利払いは国内で金が動くだけであり、大増税すれば国債償還は確実に可能ともいえるが、その場合経済・社会に大きな混乱が生じることになる。そうした混乱を起こさないようにし、国民生活を守ることこそが、財政の役割。
・日本は海外に多くの資産を有しており、海外からの金利収入を財政資金に充てればよいのではないか。
・既に、外為特会の保有する外貨資産の運用益はフルに一般会計の歳入に充てており、財政としての活用がなされている。マクロ経済的には、所得収支で今後、経常黒字を維持していけるかどうかが問題となる。
・年金制度を抜本的に改革し、年金の一元化や、基礎年金の税方式化を行うことについてどう考えるか。
・年金一元化については、自営業者の保険料が急増することをどう考えるかという問題がある。基礎年金の税方式化については、そのために新たな増税が必要となるという問題がある。
・歳入庁の創設についてどう考えるか。
・歳入庁については、検討することが「素案」に示されている。つきつめれば、歳入庁を創設することのメリットが、それに伴う様々なコストを上回るのかどうかという問題だが、少なくとも、一部で言われているように、それだけで10兆円規模の増収が実現するということはありえない。
・地方税についてはどう考えるか。地方議会改革を含め、地方における意思決定のあり方の見直しが必要ではないか。
・「素案」では、偏在性が小さく、税収が安定的な地方税体系を構築することとしている。地方サイドの考えとして、これはすなわち地方消費税を充実することを意味している。消費税が地方にとっても優れた財源であることは事実だが、国の消費税率が上がると自動的に一定割合が地方に行くという仕組みになっている。地域主権の観点からは、地方自治体が住民に向き合うことが重要であり、住民税の改革なども議論すべきではないか。
・ねじれ国会が珍しい事態ではない今日において、国会における合意形成のあり方を問い直すべきではないか。
・ねじれ国会において、各党が政局優先で動く限り、改革の実現は不可能。しかし、政治家を動かすのは民意。改革の棚上げは許さないという民意を作っていくことが必要。
・贈与税を軽減し、資産の高齢者から現役世代への移転を促すことが、経済活性化につながるのではないか。
・まさにそのような考え方から、今回の税制抜本改革では、相続税の強化と共に、贈与税の緩和を盛り込んでいる。しかし、相続税・贈与税には格差の固定化を是正する機能があり、贈与税の軽減は世代を超えた格差の固定化を助長する面もあることに留意が必要。
・ユーロ圏では徴税を強化しており、イタリアでも財政警察が活動しているが、日本でもそうした取組みが必要ではないか。クロヨン問題も最近あまり耳にしないが、依然として残っているのではないか。
・欧州のそうした国々と比べて、もともと日本の税務執行体制は比較的しっかりしていたのではないかと思うが、適正な徴税の強化に取り組む必要性は同感。クロヨン問題については、所得税のフラット化を進めてきたこと等により、あまり目立たなくなってきたのかもしれない。(補足:後で聞いた話によると、個人事業主の法人成りが容易になったことで、クロヨン問題が下火になった可能性があるとのこと。)

2012年4月9日月曜日

「社会保障と税の一体改革について(1)」記事ご紹介

財務省主計局の高田英樹氏のブログ『日英行政官日記』の中で書かれた、社会保障と税の一体改革についての記事を転載します。

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私的に主宰する勉強会「政策懇談会」を2012年3月4日に開催。
今回は、「社会保障と税の一体改革」について、自分からプレゼンし、ディスカッションを行いました。(下記はすべて個人としての意見です。)

<プレゼン概要>

・消費税は、1989年に税率3%で創設され、1997年に5%に引き上げられたが、それから約15年、引上げが行われていない。
・2008年、福田・麻生政権の下で社会保障改革とその安定財源確保のための税制改革に向けた検討がなされ、今般の社会保障・税一体改革へ通じる議論の原型ができた。この議論の結晶となる、2009年の税制改正法附則104条において、2011年度までに税制改革のための法制上の措置を講じることが定められた。
・その後政権交代が起き、この議論はいったん振り出しに戻ったが、前述の法律の規定は残った。そして、民主党政権下でも、菅・野田総理の下、社会保障と税の一体改革の議論が進められ、旧政権時代の法律の規定に従って、今年度中に法案を提出することとなっている。
・昨年末、民主党税制調査会では連日激しい議論が繰り広げられ、12月28日、29日には、連日9時間にわたり議論がなされた。29日には、総理も入って長時間議論がなされた結果、2015年10月に消費税率を10%に引き上げる等の方針が決定された。議員同士で徹底的に議論して一定の合意に達したことには意義がある。
・「社会保障・税一体改革」とは、社会保障の維持・充実と財政健全化の二大目標を同時に実現するための改革。
・あまり認識されていない面があるが、日本の社会保障制度は国際的にみて高い水準にある。平均寿命は世界一であり、医療制度も質やアクセスの良さの観点からは世界一と評価されている。
・しかし、1960年代に基本的な枠組みが構築された社会保障制度が、少子化・高齢化、非正規の増大といった雇用環境の変化、家族のあり方の変容、経済成長の停滞といった社会・経済の変化に対応しきれなくなってきている。
・日本の高齢化は先進国で最も速いペースで進んでおり、社会保障給付費が増大している。高齢化により、現在の年金・医療・介護への税金投入は毎年1兆円以上増えていく。
・1960年代には9人の現役世代で1人の高齢者を支える「胴上げ」型社会であったが、現在は3人で1人を支える「騎馬戦」形、さらにいずれ1人で1人を支える「肩車」型になる。
・ここ数年は団塊の世代が高齢化し、毎年100万人規模で高齢者人口が増え、生産年齢人口が減る。2015年までには団塊の世代がすべて高齢者となる。
・こうした状況に対応し、社会保障の安定財源を確保するため、消費税率を2014年4月に8%、2015年10月に10%に引き上げること等を内容とする税制抜本改革を実施する。
・また、税制抜本改革は、消費税のみならず、所得税や相続税を含んだ税制全体の改革を内容としている。
・消費税率5%引上げによる増収はすべて社会保障の財源に充てる。1%分は社会保障の充実(今より高い水準のサービスの提供)に、4%分は社会保障の安定化、すなわち今の社会保障制度を守るために使われる。
・社会保障の充実により、保育サービスの充実・待機児童の解消や、医師不足、特養ホーム入居待機者といった問題に対応する。
・社会保障の充実・安定化は、経済成長のためにも重要。人々の将来の不安を取り除くことにより消費を喚起することが期待される。また、医療・福祉等、社会保障自体が今後の「成長産業」であり、これを充実することは雇用・需要を増大させる。
・財政については、歳出が歳入を上回る状態が恒常的に続いており、さらに悪化している。
・現在の日本の財政を、月収40万円の家計に例えると、毎月40万円の収入に対して支出は84万円で、収入より多い44万円の借金をしており、ローン残高は6400万円という危機的な状態。
・公債残高は累増しており、平成24年度末の残高は国分だけで約700兆円、国民一人当たり554万円となる。
・平成24年度の利払費は9.8兆円。1分あたり1867万円、毎秒30万円以上が利払いに消えていることになる。昭和50年代以降、公債残高は右肩上がりで増え続けているが、金利が低下してきているため、毎年度の利払費はそれほど増えていない。しかし、ここ数年は、金利がこれ以上低下しない中、公債残高は増大し続けているため、利払費が再び上昇しつつある。金利が1%上がれば、初年度は1兆円、2年目は2.4兆円、3年目は約4兆円、国債費が増え、それだけで消費税率1%分以上が消えてしまうことになる。現下の低金利が、日本が財政破たんに向かう一歩手前で踏みとどまっている大きな要因といってよい。
・日本の債務残高対GDP比は約200%と、太平洋戦争末期と同水準になっている。ただ、戦時の債務の原因はすべて過去の出来事に起因しており、戦後は復興する一方であるのに対し、現在は、将来に向かって負担が生じるという違いがあり、一層深刻ともいえる。
・国際的にみると、先進各国は高齢化に伴い社会保障費が増えるのに伴い国民負担も増えているのに対し、日本は社会保障費が増えているのに国民負担が減っているという稀有な例となっている。
・ギリシャ等、財政状況が悪化した欧州諸国では、年金のカット等の厳しい措置を余儀なくされている。
・そうならないために、財政健全化に取り組む必要がある。日本でも、平成22年6月に国家戦略室が中心となって「財政運営戦略」を策定し、2020年度までに基礎的財政収支(プライマリー・バランス)を黒字化する等の財政健全化目標を定めた。
・政府の最新の試算によれば、今回の一体改革で2015年10月に消費税率を10%に引き上げることにより、2015年度までに基礎的財政収支赤字対GDP比を半減するという中間的な目標はほぼ達成に向かうが、2020年度における黒字化目標達成のためには、さらなる取組が必要となる。
・他の主要国も財政健全化へ向けた取組を行っている。日本の場合、「財政運営戦略」に沿って2020年度までに基礎的財政収支の黒字化を果たした場合でさえ、財政健全化のペースは他国の計画より遅い。
・消費税率への引上げに対しては、様々な「反論」がある。年末の党の議論においても、消費税率引上げがそもそも不要とする意見はほとんど無く、慎重論の大半は、引上げはいずれ必要だが、その前に何らかの前提が必要、とする、「条件付き賛成」ないし「条件付き反対」であった。
・日本は未だ低金利だから大丈夫だとの意見があるが、国債金利が急上昇している欧州各国の多くも、つい1~2年前までは国債金利は比較的低く安定した状態だった。CDSプレミアムについても同様。足下の指標が良いことが将来の保証にならないことは、リーマンショックや最近の欧州債務危機でも明らか。
・日本国債の大半が国内で消化されているから大丈夫との意見もあるが、高齢化に伴い国内貯蓄は取り崩されてきており、国内金融資産で国債消化できる余地も少なくなってきている。早晩、海外から借金しなければならない状況となる。
・国債の残高ベースでみれば95%が国内で保有されているが、流通市場、特に先物市場で見れば、既に4割が海外投資家による取引であり、その影響力は大きくなっている。
・日本政府は多額の資産を持っているから大丈夫だという意見もあるが、金融資産をネットアウトした純債務ベースでも、日本の財政状況が他の先進国より悪いことに変わりはない。また、国のバランスシート上の資産には、道路や公共インフラ等、換金できないものが多く含まれている。そもそも、資産を取り崩して支出に使えば、経済的には新たに借金することと同じ。前述の家計の例えでいえば、収入より支出がはるかに多く膨大な借金を抱えている家計において、家財をすべて切り売りし費消するまで働きに出なくてよいと言っていることになるが、問題を先送りしているだけであり、そうしている間にも借金は膨らむ一方となる。
・国債を日銀に引き受けさせればよいとの意見もあるが、それは財政健全化への努力を放棄したものと市場に受け止められる。昨年の震災直後、政府が震災国債の日銀引受けを検討しているとの噂が流れた際も、国債金利が急上昇した。
・景気が良くなるまで増税をすべきではないという意見は多く、年末の議論もこの点に集中した。「経済状況を好転させる」ことが消費税率引上げの条件となっているが、今後は復興需要もあり、相対的には経済は堅調と見られている。もっと景気が良くなってから、という意見もあるが、過去15年間そのような議論をしてきた。もはやこれ以上先送りはできない状況になっている。
・1997年に消費税率を引き上げたことがその後の景気低迷につながったとの見方もあるが、最近の研究からは、消費税率引上げは景気後退の主因ではなく、アジア通貨危機や不良債権問題の影響が大きいと考えられている。そもそも500兆円の規模の経済において、数兆円の増税がそのトレンドを変えるような決定的な影響を持つのかどうかという議論もある。
・国民負担率が日本よりはるかに高く、消費税率が25%のスウェーデンにおいて、近年は日本よりはるかに高い経済成長率を実現している。税負担が大きければ経済にマイナスとは限らない。減税した方が経済成長し税収も上がるので、かえって財政にも良いという議論があるが、そうであれば、租税負担率がOECDで最低水準にある我が国でなぜ経済が低迷し財政が悪化しているのか説明できない。
・インフレ政策により名目成長率を上げることが財政健全化への早道とする意見もあるが、当然、市場からはより高い金利を要求されることになる。名目成長率が上がれば税収は増えるが、金利や物価の上昇により歳出も増える。歳入より歳出の規模がはるかに大きい現在の日本においては、かえって財政バランスが悪化するおそれもある。
・最も強く議論されたのは、増税の前にまず政治家や官僚が身を切る改革を行い、ムダをなくすべきという点。もちろん、そうした取組みはできるだけ進めるべきだが、それだけで社会保障財源を確保し財政を健全化できる規模ではない。歳出構成の推移をみると、一貫して社会保障費が増大を続け、その他の政策的経費は縮小してきている。現在、社会保障費29兆円に対し、ムダの象徴のように言われる公共事業費は5兆円。仮に公共事業費をゼロにしても、数年分の高齢化による社会保障費の自然増分をまかなえるに過ぎない。
・国際比較でみても、政府の総支出の対GDP比について、日本はOECDの中で下位、社会保障以外の支出についてみれば最下位であり、それほど歳出削減の余地が大きいわけではない。しかし、それ以上に国民負担率は低く、租税負担の対GDP比ではOECDで最低レベルであり、借金の増加につながっている。
・まずは政治家や官僚が身を切るべき、ということは正論だが、税金は政治家や官僚のために払っているのではなく、国民が、国民の求める公共サービスのために払っていることも忘れてはならない。もちろん、税金の一部は政治家の歳費や官僚の人件費になっているが、全体の規模からすればごく一部に過ぎない。ムダの象徴のように言われている八ツ場ダムでさえ、廃止を宣言した際は地元や首都圏から大きな反対があった。ムダを減らせ、と抽象的に言うのは簡単だが、万人がムダと思う歳出はほとんどなく、同じ国民の誰かがそれを求めているからその歳出がある。一つ一つ中身を見て議論・調整が必要。八ツ場ダムの議論は、そうした側面に光が当たったという点では意味があった。
・世帯類型別に、税・保険料等の負担と、公共サービスの受益の金額を試算すると、ほとんどの世帯で、負担より受益の方が大きくなる。現在、税収をはるかに歳出が上回っていることからすれば当然の結果なのだが、公共サービスから多くの受益を受けていることがあまり認識されていない。ただし、若い世代、例えば「20代男性単身」といった世帯では負担超過になっている。現在のほとんどの世帯が受益超過であるのは、負担を借金として後世代に先送りしている結果であり、仮に「将来世代」という類型があれば、はるかに負担超過になると考えられる。

(次号に続く)