2012年3月27日火曜日

国家会計創設の提言 その1

はじめに
日本の財政状態は危機的状態にあると言われているが、国民は本当に危機的状態なのか良くわからない。平成231224日に閣議決定された平成24年度予算案の規模は、90.3兆円で前年の平成23年度の当初予算より2.1兆円少なくなり歳出の拡大に歯止めをかけたと胸をはる政府関係者がいるが、何か釈然としない感情を多くの国民は抱いている。民主党政権が発足した時、埋蔵金があるといわれていたが、その埋蔵金を有効利用した形跡がないことに国民は釈然としていない。ばらまき4K“高速道路無料化、高校無償化、(農家の)個別所得保障、子ども手当”の大事な財源である埋蔵金は本当にあるのか、おカネの使い方が不透明であることにも国民は釈然としていない。昨年の東日本大震災の復興のためには、充分な復興予算が必要であるのに、他の予算を削って復興予算を捻出した形跡も見られない。そうであれば復興予算を入れた平成24年度予算案の規模は前年より大きくなるはずである。しかし、平成24年度予算案の規模が90.3兆円で前年の平成23年度の当初予算より2.1兆円少なくなった。政府は嘘をついているのではないかと多くの国民は疑ってしまう。

国家会計創設することで、このような疑問は解決することができると考える。

わが国の財政事情
先ず、現状の制度の問題点を明らかにしたい。次のグラフを参照されたい。



平成23年度の当初予算は、92.4兆円である。一般会計税収は40.9兆円であるので、歳出と税収の差額、それは歳出の半分以上である。その差額は、主に国が借金をすることで資金を調達している。表の公債発行額の棒グラフが常にプラスであることは、借金が常に増え続けていることを示唆している。

特例公債とは、赤字国債のことである。赤字国債を発行するためには、1年限りの特例公債法が必要となる。平成23年度であれば、「平成23年度における公債の発行の特例に関する法律」が制定され施行された。平成6年より毎年赤字国債を発行するために毎年制定されている。4条公債とは、建設国債である。財政法4において「公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる」と規定されており、この規定に基づいて、建設国債が発行されている。

 上記グラフの内容を更に分析する。

歳入に占める公債依存度は、47.9%(公債金44.3兆円(特例公債発行額38.2兆円+4条公債発行額6.1兆円)÷歳入総額92.4兆円)である。そして、一般会計基礎的財政収支は、22.8兆円(公債金44.3兆円-国債費21.5兆円)のマイナスである。一般会計基礎的財政収支がマイナスであるとは、一般家庭にたとえれば、収入以上におカネを使っている家庭である。それができるのは、親がたくさん財産を持っている場合か、自分で財産を管理できない禁治産者の場合である。後者の場合、妻子に借金を背負わせるという最悪のシナリオも考えられる。前述の棒グラフでも明らかなように借金が積み重なっており、残念ながら、日本国は禁治産者になりつつある。

税と社会保障の一体化を達成するにあたって、消費増税との議論が盛んに行われている。参考までに定量的情報を提供する。現在の消費税税収は、一般会計税収は40.9兆円の内の10.2兆円である。消費増税をして現在の税率が5%から10%になったとしても、消費税税収は今の倍の20兆円余りである。消費増税後でも、一般会計基礎的財政収支は10兆円以上のマイナスである。

今の予算の問題点
 税と社会保障の一体化の議論が盛んに行われている。そのためには、現状の社会保障関係費を知る必要がある。予算の中に占める社会保障関係費は28.7兆円である。しかし、税と社会保障の一体化の議論の中では、75兆円が社会保障関係費と言われている。必要とする社会保障関係費と予算で計上されている社会保障関係費との間で45兆円前後の差異が生じている。それは、国民の支払う社会保険料が予算に含まれていないことが原因である。国民の支払う社会保険料は特別会計に計上されている。


 東日本大震災の復興予算は、3.8兆円である。その財源は、消費増税を見込んだ国債の発行によっている。そして、復興経費は、新たに創設された復興特会という特別会計に計上される。復興特会の金額を予算にいれれば、平成24年度予算案の規模は94兆円となる。平成23年度の当初予算より大きな金額となる。何か粉飾決算の数値を見せられているような気がしてならない。

 特別会計の存在を無視して国の予算を語ることは、当に“木を見て森を見ない”議論と考える。

2012年3月2日金曜日

富裕者層の所得税増税について


■消費増税やむなし 
消費増税は止むを得ないとの気持ちを多くの人々は考えていますが、無駄を省くという身を斬ることにおよび腰な野田政権の姿勢に対して多くの国民は批判的です。そこで俎上に上がってくる議論は、「金持ちにもっと課税しろ!」との議論です。私は、富裕者層の所得税増税に否定的ではないですが、金持ちにもっと課税して本当に財政再建になるのだろうかと疑問を持ちました。

■格差は拡大しているのか 
最近言われる格差社会についてですが、金持ちに富が集中して格差になっているのでしょうか?実際は違います。少子高齢化社会の下、高齢者世帯が増加すると所得ゼロの世帯も増加し、結果として、所得格差が大きく指標化されます。そのため貧富の格差が拡大しているという誤解が生じます。敢えて言えば、富裕層が増えているのではなく、貧困層が増えているのです。マスコミの報道は大衆迎合的です。本当に客観的データに基づいて議論しているか多いに疑問を持ちます。

■客観的データの分析に必要性 
そこで客観的データに基づいて議論してみたいです。
平成24年度の一般会計歳入歳出予算の概要を見ますと、歳出は90.3兆円です。歳入(我々の払う税金の総計)は46.1兆円です。公債発行額44.2兆円は歳入不足を借金で賄うために国債が発行されます。このような状態は、自分の収入の倍を消費している家計のようなものです。借金だけが雪だるま的に増えてしまいます。収入を増やすか、支出を減らすかしないと、早晩、解決しなければ自己破産になってしまいます。話を歳出、歳入に戻します。日本の財政再建をするためには、歳出をカットするか、歳入を増やすしか手はありません。歳入を増やすとは増税です。今話題の消費税の税収は、消費税(5%)で12兆円から13兆円です。消費増税1%の効果は、2.6兆円前後です。つまり、5%の消費税を10%にした場合、税収が12兆円から13兆円増えます。歳出が増えない前提(しかし、この前提は今議論している「社会保障と税の一体化」の下では非現実的)であれば、歳入は58兆円になり、公債発行額32兆円まで減ります。

富裕者層の所得税増税は効果あるのか? 
それでは、富裕者層の所得税増税は、12兆円から13兆円の税収アップ効果があるのでしょうか?
結論を述べれば、答は“NO”です。

■実証的分析 
平成22年分民間給与実態統計調査(国税庁)によれば、年収2,500万円超の納税者は、98千人です。その所得合計額は約4兆円で、支払っている所得税は11,000億円です。実効税率は27.69%です。所得税の最高税率は市町村民税を入れて50%ですが、50%の税率は年収が2,000万円を超えた部分に課されます。年収が2,100万円ですと、2,000万円までの所得に対する所得税の実効税率は14%ぐらいですので税額にすると280万円です。2,000万円を超えた部分の100万円に対して50%の所得税が課されますのでその税額は50万円です。その結果、2,100万円の所得に対する所得税は330万円になります。その時の実効税率は14.8%です。それを考えると年収2,500万円超のグループの実効税率27.69%は、それらのグループは応分の所得税負担をしている証左と考えられます。富裕税を導入して最高税率を60%にしても4,000億円程度の税の増収になるだけです。1兆円税収を上乗せするには、最高税率を75%ぐらいにする必要があります。最高税率を75%にすると優秀な人材は国外に流出していまうでしょう。人材なくして、成長なしです。

■所得税の全体を知ろう 
所得増税でもって財政再建の一助にしようと考えるのであれば、所得税の全体像を知る必要があります。

平成22年分民間給与実態統計調査(国税庁)によれば、給与所得者の納税者総数は3,755万人で、所得総額は170兆円です。支払っている所得税は72,400億円です。その内訳ですが、高所得者グループの所得総額は約4兆円で負担した所得税は11,000億円、中所得者グループの所得総額は386,000億円で負担した所得税は32,600億円、標準所得グループの所得総額は101兆円で負担した所得税は24,500億円、低所得者グループの所得総額は264,000億円で負担した所得税は4,200億円です。もう少し詳細に分析した表が下記の通りです。







 問題は、160兆円以上の所得が実効税率で2.4%から8.4%しか負担していないのです。わが国所得税の問題は、当初の消費税の導入時、その後の税率の引き上げ時、所得税の減税、配偶者特別控除の創設等を実施したことです。つまり、消費税の導入・引き上げに対する国民の理解を得るために、所得税の減税や所得控除の拡大が行われました。その結果、今の所得税は、特定のグループに税負担させている適切さを欠いた状態です。所得税の課税ベースの見直しをして公正な税制を構築することが大事と思料します。国民の所得全体に対して税率1%で所得税を課せば、16,000億円ぐらいの税収の効果があります。結果として増税になるにしても公正な税制であれば国民に受け入れられるものと信じます。富裕層だけでなく国民全体が税の追加負担をすれば、わずかな率での増税であっても、かなりの税の増収が可能となります。例えば、標準所得者グループに対して実効税率で約1%の増税(2.43%から3.42%)をすれば1兆円税収が増えます。

■所得税の抜本的改正が必要 
私は、富裕者層の所得税増税の導入に否定的ではないですが、金持ちに重税を課しても財政再建の効果は薄いのです。それより、特定のグループに税負担させている状態である所得税の抜本的改正が必要と考えます。貧困層(生活保護の対象となるグループ)以外の国民すべてが所得税の応分の負担をする必要があります。負担はできるだけ少なく、給付は限りなく多くという非常に利己的な社会の風潮がありますが、上記のような鳥瞰図的客観的データが提供されれば、理解が得られると考えます。