2012年5月15日火曜日

国家会計創設の提言 最終回


国家会計を具体的に提案する
今の一般会計と特別会計が併存する状況は、日本の財政の鳥瞰図を与えない。これでは、国民にとって国の予算の全体像を把握することはできない。国の歳入と歳出の全体像がわかる形で予算を開示する必要がある。そこでそ平成23年度の一般会計と特別会計の数値から平成23年度国家会計を作成した。更に、財務会計と同様にセグメント情報も作成した。

先ず、下記平成23年度国家会計を参照されたい。


当該国家会計は、財務省主計局が発行した「平成23年度版 特別会計ガイドブック」にある一般会計と特別会計の情報から筆者が作成したものであり、財務省が作成したものではない。その点留意されたい。

国家会計の分析
多くの国民は一般会計の規模92.4兆円に一喜一憂しているが、国家会計の規模は、232.7兆円と一般会計の2倍以上の金額である。それだけの規模の予算がどのように手当てされ、どのように費やされているかを知ることは大事である。

歳入に占める公債依存度は、46.2%(公債金107.6兆円÷歳入総額232.7兆円)である。そして、基礎的財政収支は、25.4兆円(公債金107.6兆円-国債費82.2兆円)のマイナスである。基礎的財政収支がマイナスであると言うことは、国の借金が増えていくことである。歳入の「資金等より受入」29.2兆円の内容を詳らかにすることは出来なかったが想像するに、特別会計積立金の取崩、国債発行による借入のいずれかである。29.2兆円の一部が国債発行による借入によるのであれば、歳入に占める公債依存度は、より高くなる。

基本的に国家予算は、国民の拠出した額の範囲で賄うべきである。国民の拠出した額は、79.1兆円(租税及び印紙収入43.3兆円+保険料及び再保険収入35.8兆円)である。79.1兆円で、年金、教育、防衛、公共事業等は遂行されるべきである。選挙のみに関心のある政治家は、大局的観点より予算の大盤振舞いを国民にアピールしている。その結果、国家会計の予算額は232.7兆円と健全財政とはかけ離れた数値になっている。歳出を予算編成のスタートとする弊害が現れている。

歳出に目を向けると年金等の支払にあてる社会保障関係費が75.0兆円で突出している。本来、保険料及び再保険収入35.8兆円の範囲内で社会保障関係費は賄うべきで、税金で補填する必要はないと考える。今、話題の消費増税は、保険料及び再保険収入の足りない部分を一部補填するものである。消費税が5%から10%になっても税収のアップ分は10兆円から12兆円であろう。焼け石に水である。今の税と社会保障の一体化の議論は、消費増税の議論に引きずられて大局的議論が欠落している。必要なことは、社会保障関係費75.0兆円をドラスティックに下げる方策の立案、保険料及び再保険収入35.8兆円を更に増額させる方策の立案である。

セグメント情報


(1) 歳入のその他には、利子等収入、納付金、前年度剰余金受入、国有財産処分収入、
    回収金等収入、国有財産利用収入、官業収入が含まれている。
(2) 歳出のその他には、恩給関係費、経済協力費、中小企業対策費、エネルギー対策費、
食料安定供給関係費、経済危機対応・地域活性化予備費、その他の事項経費が含まれている。
(3) 調整額は以下の通りである。
l 歳出の国債費21.8兆円、社会保障関係費11.1兆円、地方交付税交付金及び譲与金16.8兆円は一般会計から特別会計に振り返られているので調整した。
l 歳入及び歳出のそれぞれにある会計間のやりとり91.4兆円と公債金及び借入金借換え111.3兆円は相殺した。
l 歳入の公債金及び借入金20.6兆円と資金等より受入24.9兆円はあるべき国家会計ベースでの金額から逆算した調整である。
l その他の調整は、数値の整合性を計るための調整あるいは相殺である。

 
セグメント情報の分析
会計間のやりとり91.4兆円は、特別会計間のやりとりから発生している。これは単なる勘定の付替えだけでなく、大いなる無駄の発生があると確信させる点が問題である。
その説明をする。特別会計は、17ある。そしてその特別会計は、それぞれ1勘定から7勘定、計51勘定を利用して予算の執行をしている。特別会計のひとつ、年金特別会計を例にとる。年金特別会計には7勘定ある。その内訳は、[1]基礎年金勘定、[2]国民年金勘定、[3]厚生年金勘定、[4]福祉年金勘定、[5]健康勘定、[6]児童手当勘定、[7]業務勘定である。
国民の支払った国民年金保険料は、国民年金勘定に繰り入れられる。国民年金の国庫負担分は、一般会計から国民年金勘定に繰り入れられる。そして、基礎年金相当額は、国民年金勘定から基礎年金勘定に振替えられる。更に年金の事業費は、国民年金勘定から業務勘定へ振替えられる。基礎年金勘定に振替えられた基礎年金の運用のため、再度、国民年金勘定に繰り入れられる。最終的、国民年金の支払いは、国民年金勘定からなされる。特別会計を運営する事業が如何に杜撰に営まれているかは想像に難くない。「消えた年金」や「消された年金」問題から想像されることは、非効率や無責任が蔓延し、国民の大事な資産を預かり管理するという緊張感が感じられない。つまり、役人の関心は自らの待遇改善に偏り、内向きで規律の緩んだ職場ではないかということである。

一般会計の歳出に計上された国債費21.8兆円、社会保障関係費11.1兆円、地方交付税交付金及び譲与金16.8兆円が特別会計というブラックホールに流れ込んでいることが問題である。ブラックホールに吸い込まれたおカネの使い道を国民は知ることができない。

入手できる資料から、調整すべき金額を詳らかに分析することが出来ない。問題にしたい点は、国全体の予算を分析するための情報が開示されていないことである。

まとめ
多くの国民は、消費増税は避けて通れないと考えている・・が、一般会計で審議された予算の多くが特別会計というブラックホールに流れ込んでいることから、国民は、直感的になにか公になっていない情報があるのではないかと感じている。消費増税の効果は、10兆円から12兆円と言われている。しかし、ブラックホールの中で10兆円規模の無駄が発生しているのではないかと疑念を抱いている。その疑念を晴らそうと民主党政権が行った事業仕分けは、残念ながら単なる政治ショウに終わった。事業仕分け第1弾での“国が行う事業449事業にメスを入れる”という勇ましい謳い文句は、マスコミ受け狙いであった。重箱の隅をつつく議論に多くに時間を費やすが、あるべき国家会計という考えが欠落して木を見て森を見ない議論に終始したことが事業仕分け失敗の原因と考える。政治は、本当に国の予算は効率的に運用されているのか、あるいは削減できる歳出はあるのかを国民に詳らかに説明することが必要である。

OECD21カ国のデータを分析した結果、財政再建は増税ではなく、歳出削減および税の自然増が効果的であることを実証的分析が証明している。わが国の財政再建とは、先ず、基礎的財政収支25.4兆円のマイナスをゼロにすることである。ゼロにするための歳出削減は、一般会計と特別会計の間で、そして、特別会計間での粉飾を認めない連結会計的国家会計の導入が必要であり、本稿では触れていないが、税の自然増のためには、成長戦略が必要である。

国家会計ベースでの予算編成の導入は急務であると解する。

2012年5月7日月曜日

国家会計創設の提言 その3


今の一般会計と特別会計が併存する状況での国民への予算の開示は、平成8年(1996年)の会計ビッグバン以前の投資家への財務報告の状況と似ている。一般会計を親会社単独の決算書、特別会計を数ある子会社の決算書を集計したものと置き換えてみると状況を理解し易い。
会計ビッグバン以前は、個別決算中心主義の開示であった。その下では、有価証券報告書に添付され公表される財務諸表は親会社単独であることから、親会社の経営者は親会社単独の利益の計上を中心として考え、利益が出ないときには、決算直前に子会社への販売を増やし利益計上したり、含み益のある保有土地を子会社に譲渡して利益を捻出したり、含み損を飛ばしという方法で親会社が損失を計上せずに子会社に土地や有価証券を譲渡することが平然として行われてきた。単独決算では利益を計上しているが、子会社が親会社の利益を帳消しにするほどの欠損を出している企業であっても、親会社は利益を計上して配当を行っていた。このような状況が続いた背景には、個々の経営者の問題も勿論あるが、根幹は、証券取引法の有価証券報告書が単独決算中心主義であったことである。日本の制度上の問題がこのような事態をもたらした。
平成8年、橋本内閣の時、会計ビッグバンがスタートした。つまり、個別決算中心主義から連結中心主義に変更されることになった。

個別決算中心主義の問題点
個別決算中心主義でまかり通った決算操作が連結決算ではどのように取扱われるかを示した表を参考にされたい。


単独決算の操作
連結決算での取扱い
1
含み利益がある土地の子会社への売却により、親会社が利益を捻出する。
連結決算では、計上した売却益は消去され、計上した利益に対応する法人税等の納税額が不利益となり、無意味となる。
2
決算直前に子会社へ販売し売上高及び利益を計上する。
連結決算では、親子会社間取引(売上・仕入)は消去され、且つ、第3社に販売できなかった在庫について未実現利益が消去され、計上した利益に対応する法人税等の納税額だけ不利益となる。
3
含み損を抱えた土地または有価証券を、子会社に含み損を抱えたまま譲渡し、親会社の損失を子会社へ移動する。
連結決算では、子会社が保有する土地及び有価証券の時価を検討する。その結果、含み損の計上が求められ場合がある。
4
リスクの高い取引を子会社に引き受けさせ、親会社の財務諸表から排除する。
たとえ、子会社にリスクの高い取引をさせても、連結決算では、親会社または子会社で引き受けようと結果は同じになる。
5
子会社を利用した利益操作目的の取引を行う。
連結決算では、グループ間取引は消去する。


連結決算がもたらすメリット
連結決算がもたらすメリットを列記してみる。


連結決算のメリット
解説
1
連結グループ外の取引を拡大することの重要性を認識させる。
連結グループ間取引からは利益を生まないことを認識する必要がある。経営資源をグループ外の取引拡大に集中する必要がある。
2
グループ間資金の融通により、資金の有効活用を図る。
グループ内では、余剰資金があっても、資金のショートする子会社が金融機関から借入れる非効率的資金運用からグループ間で資金の調整を図り、余剰資金を借入金の返済に当て利息負担を軽減させる。
3
グループ間の外国為替決済を集約して行い、為替決済手数料の軽減につなげる。
グループ間で外貨建債権債務を集約して、相殺及び決済を一本化することで、為替決済手数料を軽減する。
4
欧米の企業間比較が可能となり、国際競争力を測定できるようになる。
単体決算を公表している欧米の企業はない。自社と海外企業の比較分析(収益性、業績、財務安全性など)が可能となる。
5
海外の証券取引所に上場できる。
各国の証券取引所に上場するには、国際会計基準(IFRS)で作成された連結財務諸表が必要となる。海外での資金調達が可能、またグローバルに知名度を高めることができる。


セグメント情報について
セグメント情報とは、企業などの売上高・営業損益を、事業部門別、地域別などに区分して開示される連結財務情報のことである。企業集団の財務内容を分析する際に有用であるとされている。セグメント情報は、有価証券報告書等の連結財務諸表の注記事項になり、会計監査の対象となっている。

セグメント情報の例を参照されたい。

開示例
企業会計基準適用指針第20号「セグメント情報等の開示に関する会計基準の適用指針」(平成20321日企業会計基準委員会)に、参考として、開示例が含まれている。以下は、その開示例の一部を抜粋したものである。

「報告セグメントの利益(又は損失)、資産及び負債等に関する情報」の開示例 

自動車
部品
船舶
ソフト
ウェア
電子
その他
(注1
調整額
(注2
連結財務諸表計上額(注3
要約損益計算書
売上
l 外部顧客への売上高
l セグメント間の内部売上高又は振替高
l 総計
セグメント利益


3,000
-

3,000
200


5,000
-

5,000
70


9,500
3,000

12,500
900


12,000
1,500

13,500
2,300


1,000
-

1,000
100


-
4,500

4,500
2,050


30,500
-

30,500
1,520
要約貸借対照表
セグメント資産
セグメント負債

2,000
1,050

5,000
3,000

3,000
1,800

12,000
8,000

2,000
-

500
5,000

24,500
18,850
その他の項目
減価償却費
有形固定資産及び無形固定
資産増加額

200
300


100
700


50
500


1,000
800


50
-


50
1,000


1,450
3,300

(注1) その他には、不動産事業、電子機器レンタル事業、ソフトウェア・コンサルティング事業及び倉庫リース事業等を
     含んでいる。
(注2) 調整額は、以下のとおりである。 
1) セグメント利益の調整額△2,050百万円には、セグメント間取引消去△500百万円、のれんの償却額△550百万円、各報告セグメントに配分していない全社費用△950百万円及び棚卸資産の調整額△30百万円が含まれている。全社費用は、主に報告セグメントに帰属しない一般管理費及び技術試験費である。
2) セグメント資産の調整額500百万円には、本社管理部門に対する債権の相殺消去△900百万円、各報告セグメントに配分していない全社資産1,500百万円及び棚卸資産の調整額△30百万円が含まれている。
3) セグメント負債の調整額5,000百万円は、本社の長期借入金である。
4) 有形固定資産及び無形固定資産の増加額の調整額1,000百万円は、本社建物の設備投資額である。
(注3) セグメント利益は、連結財務諸表の営業利益と調整を行っている。


セグメント情報の意義
 連結財務諸表はこれまで説明してきたように企業集団に属する複数の会社を一つの会社とみなして作成する財務諸表である。連結財務諸表を分析することにより、企業集団全体としての財政状態、経営成績ならびにキャッシュフローの状況を把握することができる。しかし、複数の企業からなる企業集団では複数の事業が営まれており、将来的に企業集団がいかに発展していくかを予想するためにはそれぞれの事業ごとにどのような財務状況にあるのかが投資家等に開示される必要がある。国際的に展開している企業がどこの地域への売上(例えば自動車産業の中国市場など)で利益を上げているのかも投資家などにとっては重要な情報である。
 こうした企業集団の多角化や国際化の状況を開示してくれるのがセグメント情報である。セグメント情報からその企業集団が展開している事業の数・規模とその事業に対する成長性や競争力を伺い知ることができ、「選択と集中」といった経営戦略の巧拙まで見えてくる。

国家財政のあるべき開示について
今の一般会計と特別会計が併存する状況は、日本の財政の鳥瞰図を与えない。これでは、予算が国会での承認事項であるにも関わらず、自分達が承認する予算の全体像を国会議員は把握していないのではないかと危惧している。国の歳入と歳出の全体像がわかる形で予算を開示する必要がある。そして、財務会計と同様にセグメント情報を導入して、特定の事業や資金運用の状況が個別に判るように開示すべきである。
一般会計と特別会計の中でたくさんの情報を提供しているから、日本の財政の鳥瞰図を読者で作れるはずと財務省の役人は考えていると推測する。そうであれば、財務省の役人は、公僕であることを忘れた輩である。単体決算の問題点は、上述したので再び述べることはしないが、国家財政の粉飾を防ぐためには、国家財政は連結決算によるべきである。前回の記事で引用した財務省主計局が発行した「平成23年度版 特別会計ガイドブック」の一部を再度引用したい。
【国は、その役割として外交、国防、警察などのほか、社会資本の整備、教育、社会保障など、様々な行政活動を行っており、そのための財源として税金や手数料・負担金などを集めています。国の会計は、これら税金などの収入、つまり歳入と、その使途である歳出とがどうなっているかを明らかにするものです。こうした国の会計は、毎会計年度における国の施策を網羅して通覧できるよう、単一の会計、つまり、「一般会計」で一体として整理することが、経理の明確化、財政の健全性を確保する見地からは望ましいものとされています。】
しかし、残念ながら、上記で述べた単一の会計の採用を財務省は否定して、最終的には一般会計と特別会計を分けることが妥当であるとの結論に導いている。自分達の論理を正当づけるため美辞麗句を連ねているが、つまるところ、既得権の是認・追認を肯定しているのである。
会計ビッグバンが日本の企業会計のあり方を変えたように、公会計ビッグバンが必要であると考える。