2012年3月2日金曜日

富裕者層の所得税増税について


■消費増税やむなし 
消費増税は止むを得ないとの気持ちを多くの人々は考えていますが、無駄を省くという身を斬ることにおよび腰な野田政権の姿勢に対して多くの国民は批判的です。そこで俎上に上がってくる議論は、「金持ちにもっと課税しろ!」との議論です。私は、富裕者層の所得税増税に否定的ではないですが、金持ちにもっと課税して本当に財政再建になるのだろうかと疑問を持ちました。

■格差は拡大しているのか 
最近言われる格差社会についてですが、金持ちに富が集中して格差になっているのでしょうか?実際は違います。少子高齢化社会の下、高齢者世帯が増加すると所得ゼロの世帯も増加し、結果として、所得格差が大きく指標化されます。そのため貧富の格差が拡大しているという誤解が生じます。敢えて言えば、富裕層が増えているのではなく、貧困層が増えているのです。マスコミの報道は大衆迎合的です。本当に客観的データに基づいて議論しているか多いに疑問を持ちます。

■客観的データの分析に必要性 
そこで客観的データに基づいて議論してみたいです。
平成24年度の一般会計歳入歳出予算の概要を見ますと、歳出は90.3兆円です。歳入(我々の払う税金の総計)は46.1兆円です。公債発行額44.2兆円は歳入不足を借金で賄うために国債が発行されます。このような状態は、自分の収入の倍を消費している家計のようなものです。借金だけが雪だるま的に増えてしまいます。収入を増やすか、支出を減らすかしないと、早晩、解決しなければ自己破産になってしまいます。話を歳出、歳入に戻します。日本の財政再建をするためには、歳出をカットするか、歳入を増やすしか手はありません。歳入を増やすとは増税です。今話題の消費税の税収は、消費税(5%)で12兆円から13兆円です。消費増税1%の効果は、2.6兆円前後です。つまり、5%の消費税を10%にした場合、税収が12兆円から13兆円増えます。歳出が増えない前提(しかし、この前提は今議論している「社会保障と税の一体化」の下では非現実的)であれば、歳入は58兆円になり、公債発行額32兆円まで減ります。

富裕者層の所得税増税は効果あるのか? 
それでは、富裕者層の所得税増税は、12兆円から13兆円の税収アップ効果があるのでしょうか?
結論を述べれば、答は“NO”です。

■実証的分析 
平成22年分民間給与実態統計調査(国税庁)によれば、年収2,500万円超の納税者は、98千人です。その所得合計額は約4兆円で、支払っている所得税は11,000億円です。実効税率は27.69%です。所得税の最高税率は市町村民税を入れて50%ですが、50%の税率は年収が2,000万円を超えた部分に課されます。年収が2,100万円ですと、2,000万円までの所得に対する所得税の実効税率は14%ぐらいですので税額にすると280万円です。2,000万円を超えた部分の100万円に対して50%の所得税が課されますのでその税額は50万円です。その結果、2,100万円の所得に対する所得税は330万円になります。その時の実効税率は14.8%です。それを考えると年収2,500万円超のグループの実効税率27.69%は、それらのグループは応分の所得税負担をしている証左と考えられます。富裕税を導入して最高税率を60%にしても4,000億円程度の税の増収になるだけです。1兆円税収を上乗せするには、最高税率を75%ぐらいにする必要があります。最高税率を75%にすると優秀な人材は国外に流出していまうでしょう。人材なくして、成長なしです。

■所得税の全体を知ろう 
所得増税でもって財政再建の一助にしようと考えるのであれば、所得税の全体像を知る必要があります。

平成22年分民間給与実態統計調査(国税庁)によれば、給与所得者の納税者総数は3,755万人で、所得総額は170兆円です。支払っている所得税は72,400億円です。その内訳ですが、高所得者グループの所得総額は約4兆円で負担した所得税は11,000億円、中所得者グループの所得総額は386,000億円で負担した所得税は32,600億円、標準所得グループの所得総額は101兆円で負担した所得税は24,500億円、低所得者グループの所得総額は264,000億円で負担した所得税は4,200億円です。もう少し詳細に分析した表が下記の通りです。







 問題は、160兆円以上の所得が実効税率で2.4%から8.4%しか負担していないのです。わが国所得税の問題は、当初の消費税の導入時、その後の税率の引き上げ時、所得税の減税、配偶者特別控除の創設等を実施したことです。つまり、消費税の導入・引き上げに対する国民の理解を得るために、所得税の減税や所得控除の拡大が行われました。その結果、今の所得税は、特定のグループに税負担させている適切さを欠いた状態です。所得税の課税ベースの見直しをして公正な税制を構築することが大事と思料します。国民の所得全体に対して税率1%で所得税を課せば、16,000億円ぐらいの税収の効果があります。結果として増税になるにしても公正な税制であれば国民に受け入れられるものと信じます。富裕層だけでなく国民全体が税の追加負担をすれば、わずかな率での増税であっても、かなりの税の増収が可能となります。例えば、標準所得者グループに対して実効税率で約1%の増税(2.43%から3.42%)をすれば1兆円税収が増えます。

■所得税の抜本的改正が必要 
私は、富裕者層の所得税増税の導入に否定的ではないですが、金持ちに重税を課しても財政再建の効果は薄いのです。それより、特定のグループに税負担させている状態である所得税の抜本的改正が必要と考えます。貧困層(生活保護の対象となるグループ)以外の国民すべてが所得税の応分の負担をする必要があります。負担はできるだけ少なく、給付は限りなく多くという非常に利己的な社会の風潮がありますが、上記のような鳥瞰図的客観的データが提供されれば、理解が得られると考えます。

1 件のコメント:

千葉市 経営士 酒井 闊 さんのコメント...

私は税の専門家ではありませんが、会計は専門です。
財務省の予算管理は、公開性という点からすると、不透明と、つくずく思います。企業でいうと、一般予算という本社があり、特別会計という子会社がある。5つの子会社(特別会計:地震再保険、国債整理基金、財政投融資、特定国有財産整備)があって、一応は連結の数字も公表されているが、中身がわからないし、本社と子会社の区分もよくわからない。そもそも財政投融資を見ると、約180兆の負債に対し、利益は1兆円。いったい、180年かかって返済する債権は不良債権と言わずなんと言うのでしょう。にも拘らず一般予算のみが語られる。連結でみると、国の債務が約1100兆円、資産が約800兆ぐらい約300兆円の債務超過。しかし資産のそれぞれの収益性は外の人にはわからない。
いろいろと申し上げましたが、財務省は会社でいえば、外部監査も受けず、不透明、不明朗な会計をやっているといわれても仕方がないと思います。「国会の承認を受けています」といいますが、国会議員の中でよくわかり、票や地位を気にせず堂々と意見を言える人が何人いるのでしょうか。財務省が好き勝手やっているといわれても仕方のない状況と思います。増税も必要かもしれませんが、透明性、公開性が不十分な国家財政を国民は判断できません。
更に言えば、最近国有地(公務員宿舎など)を財務省が売りに出していますが、不動産に係る人は、財務省の売却に係るOBの係り状況を非難したり、不明朗だから取扱いたくないと言っているのを聞いたことがあります。
この様に、国民から信頼されていない財務省の体質に大きな不信感があります。
財務省もやはり他の省庁と同じように利権にまみれているのでしょうか。
日本の存亡は、政府(官僚、政治家)の透明性、公開性を高め、十分に国民に知らせたうえで、改革(増税)をするかにかかっていると思います。更に言えば、倫理観を持って政策運営をするかにかかっていると思います。