2012年10月10日水曜日

環境税導入を契機に、再度、個別消費税を考える!  その3(最終回)


環境税は、消費増税です!



前回のブログ記事(その2)から、多くの方は石油諸税の金額の大きさにビックリしたと想像します。普段、私たちが買い物などの際に、価格の5%(消費増税後は10%)の消費税を負担します。これを一般消費税と呼びます。更に、個別消費税と呼ばれる消費税があります。これは、ある特定の物やサービスについてのみ課税される消費税です。石油諸税は、個別消費税に分類されます。石油諸税以外で個別消費税に分類される税金がいくつかあります。それは、酒税、たばこ税等です。

石油諸税、たばこ税、酒税などの個別消費税の取扱いについて、国税庁のホームページから抜粋します。
【消費税の課税標準である課税資産の譲渡等の対価の額には、酒税、たばこ税、揮発油税、石油石炭税、石油ガス税などが含まれます。これは、酒税やたばこ税などの個別消費税は、メーカーなどが納税義務者となって負担する税金であり、その販売価額の一部を構成しているので、課税標準に含まれるとされているものです。】

税法の書き振りでは、多分、意味が良く判らないと思います。言っている意味は、「これら個別消費税は、購入した製品の原価の一部として取り扱い、物の原価と個別消費税の総計に対して一般消費税を課す」の意味です。このことは、個別消費税に一般消費税が課せられること(Tax on Tax)を意味します。前回のブログ記事(その2)で使用した例「ガソリンの価格1リットルあたり140円、これを50リットル給油したとして、ガソリン代7,000円プラス消費税(10%)700円の7,700円」を利用して、Tax on Taxを説明します。

 
Tax on Taxの取扱いは、心情的に受け入れがたいですが、租税法律主義の観点からは、止むを得ないと考えます。個別消費税がなくなれば、Tax on Taxの取扱いは発生しません。そこで、個別消費税について検討いたします。


一般消費税と個別消費税のちがい

一般消費税の場合は、税法に非課税とされるものを定めなければ、すべての製品・サービスが課税の対象となります。ですから、現行の5%でも一般消費税の税収は、12.8兆円になります。10%への消費増税後の一般消費税の税収は、26兆円前後になります。徴収する立場からは、ほとんどすべての製品・サービスが課税の対象となる一般消費税は非常に効率的です。
個別消費税について検討します。課税ベースの広い一般消費税に比べて個別消費税の場合には、法律に課税対象を定めなければ課税の対象となりません。ですから、課税対象を定める必要があります。ここから個別消費税の問題点が浮かび上がってきます。
 l  特定の製品・サービスを個別消費税の対象にする場合、対象にする理由が必要です。石油諸税が課されている主な理由は、道路を建設して社会インフラを充実させることでした。税金の使い道が特定されていることは、その予算の執行は監督官庁に任されることを意味します。その結果、特定の製品・サービスの許認可権を握る監督官庁は、強力な権益を手にすることができます。予算消化のため不要な工事をするというような税の無駄遣いが発生する余地があります。
 l  次に、課税の公平という観点から、生活必需品やそれに準じたものを個別消費税の課税対象から除外すべきであり、奢侈性の高いものほど税率を高くすべきであるという考え方があります。この考え方に同意しますが、具体的に何が奢侈性の高いものであり、何が生活必需品であるかを判断することは意外に難しく、恣意的な決定などを導きやすいです。政治的な理由などにより、新たな製品やサービス、とくに奢侈的なものを課税対象にし難いことが多いです。実際の個別消費税は、酒税、たばこ税、揮発油税、石油石炭税、石油ガス税、そして今回導入される環境税です。左記の個別消費税の課税対象は、皮肉にも、個別消費税の課税対象から除外すべき生活必需品やそれに準じたものです。


個別消費税はこれからも必要か

 前節で議論した個別消費税の問題点、Tax on Taxが生じることを是とする税法の取扱いは、一般消費税が5%であれば許容されたものであったかも知れません。しかし、10%への消費増税の後、一般消費税による歳入金額は、12.8兆円から26兆円前後になります。このような多大な増税による国民負担を強いている時に、課税対象に問題のある個別消費税とTax on Taxが生じることを是とする税法を不問に付して、現状維持を図ることは認められないと考えます。
 
消費増税の下、個別消費税のひとつである環境税が導入されます。環境税の使い道について、国民不在・霞が関の論理優先が垣間見られます。新聞報道によれば、【環境税で生まれる新たな財源を巡る政府内の駆け引きも始まっている。2013年度税制改正で農林水産省はCO2を吸収する森林整備に税財源を、総務省は地方の温暖化対策への財源を求めている。ともにCO2の排出抑制策に使うことになっている環境税の使途を広げることが念頭にある。石油石炭税を繰り入れるエネルギー対策特別会計を所管する経済産業省などとの綱引きが激しくなりそうだ。】

環境税のみならず個別消費税の存続の意義を問う必要があると切に考えます。

2012年10月3日水曜日

環境税導入を契機に、再度、個別消費税を考える!  その2

環境税と石油諸税との関係は!?


ここで時計の針を20164月に進めてみたいです。20164月には環境税は完全実施され、消費増税も完全実施されて10%になっています。20164月に車を運転して、ガソリンスタンドでガソリンを給油したと想定します。その時、ガソリンスタンドの入口に示されたガソリンの価格は1リットルあたり140円でした。「オッ!これは安いぞ!」と50リットルの給油をします。代金は、ガソリン代7,000円プラス消費税(10%)700円の7,700円でした。7,700円の計算は容易くできましたが、1リットルあたり0.76円の環境税がどのように課せられているのか判りませんでした。そこで環境税の取扱いをしらべました。その結果、驚愕の事実がわかりました。


7,700円の代金の内、税金は700円ではなく3,530円もあるのです。内訳は、ガソリン税、石油石炭税、環境税(「石油諸税」と呼びます)の合計2,830円と消費税(10%)700円です。2,830円もの多額の石油諸税について検討します。

多額の石油諸税は国の歳入のどれぐらいを占めているのでしょうか。この分析を2016年の予想予算額を使用して実施することは、当該予想予算額が手許にないことから無理です。そこで、現実に戻って、この分析が可能な直近年度の数値を利用することにします。分析可能な石油諸税の内訳は、2008年度予算案から入手することが出来ました。そこで2008年度予算案の数値を利用して行います。環境税がもたらす歳入は含まれていませんが、石油諸税の全体像は十分把握できると考えます。


石油諸税の国家予算に占める割合は・・・

この石油諸税の国家予算に占める割合はどのくらいなのでしょうか。2008年度(平成20年度)予算によれば、国税収入の合計は551,399億円。内訳では所得税の29.5%、法人税30.3%、消費税19.4%に続き、石油諸税6.9%という非常に高い割合となっています。ちなみに税金を飲んでいると言われる酒税は2.8%、タバコ税2.0%、また相続税の2.8%より遥かに多いことを国民の皆様は、ご存知でしょうか。また自動車関連という意味では、自動車重量税1.9%もあるので、石油+自動車では、8.8%も負担しているとも言えるでしょう。


  

石油の税金は一体何に使われているのか


 

 石油諸税が課されている主な理由は、道路を建設して社会インフラを充実させることでした。石油諸税の歳出は、一般会計を通して大部分が特別会計に移されます。上記石油諸税の使途、道路整備4600億円は、道路整備特金から支出されます。4600億円の予算の執行は監督官庁である国土交通省が行います。今の日本で道路建設・整備に4600億円ものおカネが必要であるとはだれも考えません。それでも、毎年、4兆円近い金額が道路建設・整備に使われていました。不要不急の建設が多くあったと想像されます。このような背景の下、2009年度より道路整備特金は廃止され、それら税金は一般財源化されました。
それら税金の一般財源化は正しい方向でしょうか!? そう、とは考えません。道路を建設して社会インフラを充実させるという目的をほぼ達成した現在、その目的税は廃止すべきと考えます。4600億円ものおカネを目的外に流用することは、許されることとは考えません。更に、憲法が定める租税法律主義の精神からも反する行為と考えます。

2012年9月26日水曜日

環境税導入を契機に、再度、個別消費税を考える!  その1

環境税とは!?


 2012101日に地球温暖化対策のための税(環境税)が導入されます。ガソリンは1リットルあたり0.25円の増税となります。環境税は、10月から税負担が1リットルあたり0.25円、144月に0.25円、164月に0.26円と3段階で増えます。完全実施後は1リットルあたり0.76円の環境税が課せられます。環境税は原油や天然ガスなどにかかる石油石炭税に一定額を上乗せするものです。
別の言い方をすれば、石油石炭税の増税です。環境税は、ガソリンの原料である原油のみならず、液化天然ガス、石炭に対しても課せられます。つまり液化天然ガス、石炭を原料とする電気代、ガス代に影響があります。2012913日の日経朝刊の記事を抜粋します。

101日導入の環境税が家庭用の電気代や都市ガスなど燃料費に上乗せされると、1世帯あたり年間1200円程度の負担増になる。産業用も含め全ての製品で価格に転嫁されると、負担増は1世帯平均で年5000円程度になる。原子力発電所の停止に伴うLNGの輸入増は一段の税負担増につながる。】
 
 
 このような家計の負担増をもたらす環境税の目的について、説明が必要です。そこで、環境省の説明を抜粋します。
l 「環境税」は、税制による地球温暖化対策を強化するとともに、エネルギー起源CO2排出抑制のための諸施策を実施していく観点から導入するものです。具体的には、原油やガス、石炭といった全化石燃料に対して、CO2排出量に応じた税率を課すものです。地球温暖化の防止は人類共通の課題であり、あらゆる人に利益をもたらすものです。従って、そのための負担は、エネルギーを利用する方全体で幅広く公平に担っていくべきと考えています。
l こうした「受益と負担」の関係に着目し、温室効果ガスの9割を占めるエネルギー起源CO2の原因をもたらす全化石燃料に対し、「広く薄く」公平にCO2排出量に応じた課税を行うこととしました。
l 温室効果ガスを削減するという観点から、化石燃料やエネルギーに課税する環境税は、欧州を中心に導入が進められています。1990年には、世界で初めて、フィンランドにおいて、いわゆる炭素税が導入され、その後、スウェーデン、ノルウェー、デンマークといった北欧諸国やオランダで導入されました。現在では、ドイツ、イタリア、イギリス、フランス、スイスやカナダの一部の州でも課税されています。これらの国々では、それぞれの国の実情に応じた様々な方法で導入に至っています。

つまり、「京都議定書」で定められたCO2削減対策の一環として環境税が導入されました。しかし、経団連は、環境税を導入しなくてもCO2削減対策は十分とれるとの立場をとっています。2006年ですが経団連は、環境税のもたらす悪影響についてまとめた資料を作成しているので抜粋します。

悪影響1:家庭と企業にダメージ
「環境税」導入によるさらなるコスト増は、企業のみならず、国民全体を苦しめます。その上、経済成長を促進し、わが国経済の国際競争力を強化しなければならない中、その流れを妨げ、逆行させるおそれがあります。
原油価格の上昇はすでに社会全体に影響を与えています。さらに「環境税」が導入されれば、家庭や企業をいっそう苦しい立場に追い込みます。
悪影響2:企業の自主的な取り組みの基盤を阻害
「環境税」の導入は、日本経団連の「環境自主行動計画」の目標に向けて、中長期的視野に立ち、設備投資などに多額のコストをかけてきた企業に対してさらなる負担を強いるものです。「環境税」は企業の設備投資や研究開発の原資を奪い、これまで大きな成果をあげてきた自主的な取り組みの基盤を損ねます。今後、エネルギー効率の高い機器・設備の普及と置き換わりが進めば、2020年には世界全体で約37億トンのCO2排出を抑制できる可能性もあります。
悪影響3:地球規模での温室効果ガスが増大
わが国のエネルギー効率は世界最高水準にあります。他のどこの国に生産が移転しても、温室効果ガスの排出量増大につながります。
「環境税」導入により、わが国よりエネルギー効率が低く、「環境税」のない近隣諸国での生産活動が増えれば、結果的に地球規模での温室効果ガスの排出量増大と国内産業の空洞化を引き起こすおそれがあります。

原子力発電所の停止に伴うLNGの輸入増は一段の環境税の負担増につながることを考えると、私見ですが、「今、環境税か!?」が率直な意見です。

2012年9月12日水曜日

TPP参加日本の選択

日経朝刊のコラム:経済教室で「TPP参加日本の選択」という記事が2012827日から3回の連載で掲載されました。第一回目は東京大学教授中川淳司氏で、第二回目は一橋大学教授石川城太氏で、最終回は青山学院大学教授岩田伸人氏でした。これらの記事は当該先生の名前の部分をクリックすればアップロードされます。

「TPP参加日本の選択」という興味津々の議題ですが、多くの人にとって先生方の記事の内容から全体像を理解することは難しいと思います。本ブログ記事では、やや独断と偏見のきらいはありますが、これらの記事のエッセンスの抽出を試みたいです。



農業問題について

昨年11月の時事通信の世論調査によれば、「日本もTPPの交渉に参加すべきだ」が52・7%、「参加すべきでない」が28・8%。今年7月の調査では「参加すべきだ」が57・6%、「参加すべきでない」が21・7%だった。反対グループは、大きく次に分類されるだろう。既得権益の保護派(農業関係者など)、反グローバル派、反米派、その他(食の安全を危惧するグループなど)である。ところが、昨年11月の時点では国会議員の半数近くがTPPに反対の立場をとっており、現在も根強い反対論がある。国会議員の反対の多くは、選挙基盤が農協、農家にあるためである。

仮に、TPPで利益を得る人が1億人いて、その利益の合計が10兆円、一方で損失を被る人が200万人いて、その損失の合計が8兆円としよう。この場合、経済全体としては差し引き2兆円の利益になるのでTPPを進めた方がよいはずだが、実際にはなかなか実現しない。それは得するグループの利益が1人あたり10万円なのに対し、損するグループ(つまり、農業関係者)の損失は1人あたり400万円にもなるからだ。既得権益がなくなるグループの損害額は、大きいので政治的圧力をかけるインセンティブが大きくなる。09年の総選挙時に民主党がマニフェスト(政権公約)に記した戸別所得補償制度は現状の農業者の減反(作付け制限)が条件だ。農業者の生産意欲とは無関係に作付面積の規模に応じて、ほぼすべての販売農家に所得補償をする仕組みであることから「バラマキ」と称された。農業の近代化を図って第一次産業の復活を目指す視点が多くの政治家には欠如いる。生産意欲のない「バラマキ」ねらいの農家を守ること、選挙に勝つことしか考えていないのが、TPPに反対の立場をとる国会議員である。

仮に日本のTPP交渉参加が今年か来年としても、協定発効までに1~2年、さらに関税貿易一般協定(GATT)第24条に基づけばTPPの完成までに10年かかるので、TPPの完成時期は2024~25年となる。そのとき、農業の近代化を図って第一次産業の復活を目指す軌道に乗っているのだろうか。



TPPとは

米国はTPPを、広範囲かつ高水準の貿易と投資の自由化を実現する21世紀のFTAのモデルと位置づけている。TPPをテコに世界貿易秩序が再構築されつつあり、日本がそこから排除される不利益は計り知れない。まず、TPPのルールづくりに関与するという観点が必要だ。TPPは他のFTAよりも高度な自由化を目指しており、そのルール形成が今後のアジア太平洋地域の通商秩序を大きく左右する。従って、交渉時点でのルール形成への積極的な関与が日本にとって極めて重要である。