2012年5月7日月曜日

国家会計創設の提言 その3


今の一般会計と特別会計が併存する状況での国民への予算の開示は、平成8年(1996年)の会計ビッグバン以前の投資家への財務報告の状況と似ている。一般会計を親会社単独の決算書、特別会計を数ある子会社の決算書を集計したものと置き換えてみると状況を理解し易い。
会計ビッグバン以前は、個別決算中心主義の開示であった。その下では、有価証券報告書に添付され公表される財務諸表は親会社単独であることから、親会社の経営者は親会社単独の利益の計上を中心として考え、利益が出ないときには、決算直前に子会社への販売を増やし利益計上したり、含み益のある保有土地を子会社に譲渡して利益を捻出したり、含み損を飛ばしという方法で親会社が損失を計上せずに子会社に土地や有価証券を譲渡することが平然として行われてきた。単独決算では利益を計上しているが、子会社が親会社の利益を帳消しにするほどの欠損を出している企業であっても、親会社は利益を計上して配当を行っていた。このような状況が続いた背景には、個々の経営者の問題も勿論あるが、根幹は、証券取引法の有価証券報告書が単独決算中心主義であったことである。日本の制度上の問題がこのような事態をもたらした。
平成8年、橋本内閣の時、会計ビッグバンがスタートした。つまり、個別決算中心主義から連結中心主義に変更されることになった。

個別決算中心主義の問題点
個別決算中心主義でまかり通った決算操作が連結決算ではどのように取扱われるかを示した表を参考にされたい。


単独決算の操作
連結決算での取扱い
1
含み利益がある土地の子会社への売却により、親会社が利益を捻出する。
連結決算では、計上した売却益は消去され、計上した利益に対応する法人税等の納税額が不利益となり、無意味となる。
2
決算直前に子会社へ販売し売上高及び利益を計上する。
連結決算では、親子会社間取引(売上・仕入)は消去され、且つ、第3社に販売できなかった在庫について未実現利益が消去され、計上した利益に対応する法人税等の納税額だけ不利益となる。
3
含み損を抱えた土地または有価証券を、子会社に含み損を抱えたまま譲渡し、親会社の損失を子会社へ移動する。
連結決算では、子会社が保有する土地及び有価証券の時価を検討する。その結果、含み損の計上が求められ場合がある。
4
リスクの高い取引を子会社に引き受けさせ、親会社の財務諸表から排除する。
たとえ、子会社にリスクの高い取引をさせても、連結決算では、親会社または子会社で引き受けようと結果は同じになる。
5
子会社を利用した利益操作目的の取引を行う。
連結決算では、グループ間取引は消去する。


連結決算がもたらすメリット
連結決算がもたらすメリットを列記してみる。


連結決算のメリット
解説
1
連結グループ外の取引を拡大することの重要性を認識させる。
連結グループ間取引からは利益を生まないことを認識する必要がある。経営資源をグループ外の取引拡大に集中する必要がある。
2
グループ間資金の融通により、資金の有効活用を図る。
グループ内では、余剰資金があっても、資金のショートする子会社が金融機関から借入れる非効率的資金運用からグループ間で資金の調整を図り、余剰資金を借入金の返済に当て利息負担を軽減させる。
3
グループ間の外国為替決済を集約して行い、為替決済手数料の軽減につなげる。
グループ間で外貨建債権債務を集約して、相殺及び決済を一本化することで、為替決済手数料を軽減する。
4
欧米の企業間比較が可能となり、国際競争力を測定できるようになる。
単体決算を公表している欧米の企業はない。自社と海外企業の比較分析(収益性、業績、財務安全性など)が可能となる。
5
海外の証券取引所に上場できる。
各国の証券取引所に上場するには、国際会計基準(IFRS)で作成された連結財務諸表が必要となる。海外での資金調達が可能、またグローバルに知名度を高めることができる。


セグメント情報について
セグメント情報とは、企業などの売上高・営業損益を、事業部門別、地域別などに区分して開示される連結財務情報のことである。企業集団の財務内容を分析する際に有用であるとされている。セグメント情報は、有価証券報告書等の連結財務諸表の注記事項になり、会計監査の対象となっている。

セグメント情報の例を参照されたい。

開示例
企業会計基準適用指針第20号「セグメント情報等の開示に関する会計基準の適用指針」(平成20321日企業会計基準委員会)に、参考として、開示例が含まれている。以下は、その開示例の一部を抜粋したものである。

「報告セグメントの利益(又は損失)、資産及び負債等に関する情報」の開示例 

自動車
部品
船舶
ソフト
ウェア
電子
その他
(注1
調整額
(注2
連結財務諸表計上額(注3
要約損益計算書
売上
l 外部顧客への売上高
l セグメント間の内部売上高又は振替高
l 総計
セグメント利益


3,000
-

3,000
200


5,000
-

5,000
70


9,500
3,000

12,500
900


12,000
1,500

13,500
2,300


1,000
-

1,000
100


-
4,500

4,500
2,050


30,500
-

30,500
1,520
要約貸借対照表
セグメント資産
セグメント負債

2,000
1,050

5,000
3,000

3,000
1,800

12,000
8,000

2,000
-

500
5,000

24,500
18,850
その他の項目
減価償却費
有形固定資産及び無形固定
資産増加額

200
300


100
700


50
500


1,000
800


50
-


50
1,000


1,450
3,300

(注1) その他には、不動産事業、電子機器レンタル事業、ソフトウェア・コンサルティング事業及び倉庫リース事業等を
     含んでいる。
(注2) 調整額は、以下のとおりである。 
1) セグメント利益の調整額△2,050百万円には、セグメント間取引消去△500百万円、のれんの償却額△550百万円、各報告セグメントに配分していない全社費用△950百万円及び棚卸資産の調整額△30百万円が含まれている。全社費用は、主に報告セグメントに帰属しない一般管理費及び技術試験費である。
2) セグメント資産の調整額500百万円には、本社管理部門に対する債権の相殺消去△900百万円、各報告セグメントに配分していない全社資産1,500百万円及び棚卸資産の調整額△30百万円が含まれている。
3) セグメント負債の調整額5,000百万円は、本社の長期借入金である。
4) 有形固定資産及び無形固定資産の増加額の調整額1,000百万円は、本社建物の設備投資額である。
(注3) セグメント利益は、連結財務諸表の営業利益と調整を行っている。


セグメント情報の意義
 連結財務諸表はこれまで説明してきたように企業集団に属する複数の会社を一つの会社とみなして作成する財務諸表である。連結財務諸表を分析することにより、企業集団全体としての財政状態、経営成績ならびにキャッシュフローの状況を把握することができる。しかし、複数の企業からなる企業集団では複数の事業が営まれており、将来的に企業集団がいかに発展していくかを予想するためにはそれぞれの事業ごとにどのような財務状況にあるのかが投資家等に開示される必要がある。国際的に展開している企業がどこの地域への売上(例えば自動車産業の中国市場など)で利益を上げているのかも投資家などにとっては重要な情報である。
 こうした企業集団の多角化や国際化の状況を開示してくれるのがセグメント情報である。セグメント情報からその企業集団が展開している事業の数・規模とその事業に対する成長性や競争力を伺い知ることができ、「選択と集中」といった経営戦略の巧拙まで見えてくる。

国家財政のあるべき開示について
今の一般会計と特別会計が併存する状況は、日本の財政の鳥瞰図を与えない。これでは、予算が国会での承認事項であるにも関わらず、自分達が承認する予算の全体像を国会議員は把握していないのではないかと危惧している。国の歳入と歳出の全体像がわかる形で予算を開示する必要がある。そして、財務会計と同様にセグメント情報を導入して、特定の事業や資金運用の状況が個別に判るように開示すべきである。
一般会計と特別会計の中でたくさんの情報を提供しているから、日本の財政の鳥瞰図を読者で作れるはずと財務省の役人は考えていると推測する。そうであれば、財務省の役人は、公僕であることを忘れた輩である。単体決算の問題点は、上述したので再び述べることはしないが、国家財政の粉飾を防ぐためには、国家財政は連結決算によるべきである。前回の記事で引用した財務省主計局が発行した「平成23年度版 特別会計ガイドブック」の一部を再度引用したい。
【国は、その役割として外交、国防、警察などのほか、社会資本の整備、教育、社会保障など、様々な行政活動を行っており、そのための財源として税金や手数料・負担金などを集めています。国の会計は、これら税金などの収入、つまり歳入と、その使途である歳出とがどうなっているかを明らかにするものです。こうした国の会計は、毎会計年度における国の施策を網羅して通覧できるよう、単一の会計、つまり、「一般会計」で一体として整理することが、経理の明確化、財政の健全性を確保する見地からは望ましいものとされています。】
しかし、残念ながら、上記で述べた単一の会計の採用を財務省は否定して、最終的には一般会計と特別会計を分けることが妥当であるとの結論に導いている。自分達の論理を正当づけるため美辞麗句を連ねているが、つまるところ、既得権の是認・追認を肯定しているのである。
会計ビッグバンが日本の企業会計のあり方を変えたように、公会計ビッグバンが必要であると考える。

0 件のコメント: