2012年6月6日水曜日

本当にもったいないこと!? 提言その2


Facebook「村田租税政策研究所FBグループ」メンバーのひとり、須藤一郎氏からの投稿を転載します。興味ある提言です。

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国の債務を家計の債務に置き換えてみたときに、1100兆円の債務に対する40兆円の税収を、年収400万のサラリーマンが11000万円の借金を負っている、というたとえを目にする。これが平均的な国民が直面している状況であるならば、すでに破綻である。この手の話で無視されている側面は、「反対側」である。100円のものが100円で取引されるということは、100円の債権者と100円の債務者ができ、経済全体で100円の貸借関係が生じるということである。お金を払えば取引当事者同士の貸借関係は解消するが、買い手はお金をどこかから調達しなければならず、また売り手はそのお金を保有乃至はどこかに預けることになるので、経済全体では100円の貸借関係を作ることになる。当たり前の話であるが、この債権・債務の額は必ず等しい。閉鎖経済を前提としてこの貸借関係をみれば、国全体では、純債務も純債権もない。国を政府と民間の二つの部門に割り、民間部門に合計で100円の純債権があれば、政府部門は100円の債務を負っていることになる。すなわち、1100兆円ともいわれる政府部門の債務は民間部門の債権に他ならないのである。団塊の世代が退職し、家計が貯蓄を取崩しはじめることは、政府部門の債務が減少することとイコールであり、家計部門の貯蓄が減少すれば国債を買う財源がなくなるという終末論は本末転倒のように思える。

この点に着目すれば、政府部門がどれほどの債務を負うべきか(あるいはいくら以上負うべきでないか)という話は、民間部門がどれほどの債権=貯蓄を有したいか、という問いに他ならない。家計部門の金融資産は1400兆円といわれているが、日本の世帯数5000万で割れば、一世帯あたりの平均残高は2800万円である。1985年における家計部門の金融資産は400兆円(当時、この資産残高を称して、日本は経済的には豊かになったが、これからは本当の豊かさを追求すべき、という論調があったが、今ではその三倍以上の資産がつみあがっている)、当時の世帯数4000万世帯で割ると、一世帯あたりの平均残高は1000万円となる。政府部門の視点で見れば、1985年からの政府債務の増加は、社会保障費が増大し、税収がその伸びに追いつかない状況といえようが、民間部門の視点で見れば、①家族・地域のかかわり方が疎になっており、1000万円の貯蓄では老後を支えられないのでもう少し貯蓄が必要、②取り立てて消費需要がないので何もしなければ貯蓄が増えていく、といったところだろうか。経済学では貯蓄は将来の消費を前提にしており、異時点間における消費の選好の問題として捉えられているが、実際には将来の消費のための貯蓄という他に、将来消費されることが前提とされていない「備え」としての貯蓄(あるいは、「意図せざる貯蓄」というべきか)が多いのではないだろうか。「備え」は実際には消費されることなく次の世代に相続される。この「備え」は、「信じられるのはお金だけ」という表現にあらわされるように、家族・地域のかかわり方が疎になればなるほど多額を必要とする。この民間部門の増大する債権=貯蓄の相手方は、国を民間と政府の二つに割れば、政府しかないのである。政府部門の債務残高が大きすぎるかどうかを判断するには、民間部門がどれほどの貯蓄を必要としているかという視点も必要であり、これを考慮した上で、政府部門の債務残高が過剰になっているかどうかの吟味が必要である。もし、民間部門が必要と感じる額以上の貯蓄をしていうというコンセンサスがあれば、増税をすべきだろう。民間部門がもう少し貯蓄を必要と感じるなかで財政支出を切り詰めれば、経済活動が抑制され、「本当にもったいない」状況を加速しかねない。重要なことは、経済全体で、最も効率のよい経済活動=分業をおこなうことである。歳出削減で困るのは公務員ではなく、民間部門なのである。

世間で言われる、「国民一人当たりの債務がいくらだから…」、「団塊の世代の貯蓄が取り崩されると国債の受け皿がなくなるから…」という類の終末論ではなく、「本当にもったいない」ことしてないかという観点から増税の是非を議論すべきではないだろうか。もし国民がフル稼働したら、国民全員が豪邸に住み、高級車に乗れるかもしれない。財政再建を達成しても、国民の仕事が無くなったのでは意味がない。ここまでは、閉鎖経済を前提として原理的な話をしたが、次回以降、海外部門を考慮に入れて、一連の話を整理したい。

須藤 一郎

1 件のコメント:

小暮 さんのコメント...

一般の人にわかりやすい、非常におもしろい論説です。
とても興味あります。