2012年6月13日水曜日

本当にもったいないこと!? 提言その3

Facebook「村田租税政策研究所FBグループ」メンバーのひとり、須藤一郎氏からの投稿を転載します。4回の連載形式でまとめられた興味ある提言です。

今回は第三回投稿を紹介します。


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今まで二度にわたり投稿した内容を要約すれば、1.結局のところ共同体の経済厚生を高めることができるのは分業であり、分業を深化させる政策が重要であること、「本当にもったいない」のは、財政支出自体ではなく、歳出削減によって分業の深化が進まくなること、2. 分業を深化させるには、共同体の内部での信用創造が不可欠で、政府債務はその信用創造の役割を果たしていること、政府部門の債務削減は信用創造の削減であり、分業の深化に歯止めをかけかねないこと、の二点。今回は3つめのポイントとして、国際競争力というContextでは、この二点についてどう考えるべきかについて検討してみたい。

検討に先立ち、前提となる日本経済の対外取引状況を確認しておきたい。GDP500兆円に対して、輸入60兆円、輸出60兆円、ともに10%強であり、貿易なしで経済を考えるわけにはいかない。いわゆる多国籍企業といわれる企業に従事する人口は全体の5%程度であり、95%は国内経済に依存している状況である。残高ベースでの対外債権は550兆円、対外債務は300兆円、純債権は250兆円である。

まず第一点目として、家計部門の債権=企業部門の債務+政府部門の債務、という等式に海外部門を加えると、家計部門の貯蓄の反対側は、政府・企業・海外部門ということになる。輸出が輸入を超過していれば、国内部門の貯蓄、海外部門の債務となる。現実には250兆円程度の国内部門の貯蓄超過である。閉鎖経済の場合とは異なり、海外部門からの借入は、国内部門にとってみれば、将来世代への負担の先送りということになるが、現状、日本全体で見れば、純債権国であり、将来世代への負担の先送りという状況ではない。家計部門の1400兆円の資産が、政府部門の債務、企業部門債務、海外部門債務により構成されているという構図になる。重要なことは、債権者である家計部門の投資先は、国内の政府・企業のみならず、海外部門という選択肢が加わることである。すなわち、海外部門に魅力的な投資機会があると判断すれば、政府部門・企業部門の資金調達に支障が生じることになる。政府部門・企業部門はより高いコストを支払わなければ資金調達できなくなる。(例えば中国への投資が自由にできるようになり、そちらに民間資金が流れれば、政府部門の資金調達はその分Squeezeされる、など)

第二点目。閉鎖経済では、分業を深化させ、生産性を高め、生産物を分配する、その触媒として適切な水準の信用創造(=債権債務関係)が必要である、と整理されたが、開放経済では、必ずしも分業生産したものが交換できるとは前提できない。経済学では、二国間の貿易でそれぞれの国の厚生を高めることができるという整理をするが(例えばリカードの比較優位の原則など)、多数の国・企業が参加する国際市場では、国際競争力がなければ国際市場から淘汰される可能性もある。輸出品の競争力がなければ、輸入をするための外貨を調達できず、食料品・エネルギーなどの必需品の調達ができなければ、国民の経済厚生は低下せざるをえない。国際競争力は死活問題であり、国内における経済取引活性化と同列には考えられない。一国を家計に例えれば、夫が稼いだ給料を妻とどう配分するのが公正かという配分の公正の問題に優先して、夫の収入を最大化するために妻は何をすべきかを考えるがごときである。このアナロジーを一国経済に置き換えると、5%の国際競争企業にがんばってもらうためには、国民全体でそれをサポートすべき、ということになる。例えば、高騰する社会保障給付費を法人税・社会保険料会社負担分などで賄えば、国際市場における価格競争力は低下するだろうが、消費税によって賄う場合には、企業の価格競争力には影響を低く抑えることができる。雇用制度についても同じことが言える。余剰人員を企業がかけなければならない労働法制のある国では、余剰人員が価格競争力の足かせとなるが、労働者保護の緩やかな国では、雇用が守られない分については、国の社会保障制度や就労支援など、国民負担が生じるかもしれないが、企業の国際競争力に対する悪影響を抑制できる。日本を一つの共同体として考えるならば、国際競争力を高めるための政策に国全体として与する方が得策ということにならないだろうか。国際立地競争力を高めるという話も同じContextである。現状の財政赤字を外国人・外資系企業にも負担してもらおうと思えば、法人税・所得税を引上げることになろうが、そうすることで、対日投資が低くなってしまえば、結局は国という共同体の厚生にはマイナスの影響を及ぼすことになる。外国人にどれほどの公費負担をしてもらうかは、こういうContextの中で考えなければならないテーマである。

国内の経済においては、共同体として国の内側で、どれだけ分業を深化させるか、「本当にもったいないことをしてないか」ということにフォーカスすべきであるが、国際競争の前提においては、他者との競争にフォーカスしなければならない。この共同体の内側の話と外側の話を混同せずに政策論争をすべきである。次回の投稿で今までの話をまとめてみたい。


須藤 一郎

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