2012年8月17日金曜日

消費増税に伴う「あるべき税制改正」その3

わが国の深刻な財政悪化を改善するため、消費増税は不可避な選択肢の一つであると多くの国民は考えています。今回の消費増税によって5%の税率が20144月に8%に、1510月には10%に上がります。計算上は、消費税による10兆円余りの税収が倍の20兆円になるはずです。本連載では、消費税という税の本質から派生的に発生する問題を取り上げてみたいです。出来れば、その問題がもたらす影響をマイナスの影響でなく、プラスの影響に導くための税制改正についての提言もしたいです。

食料品に対する消費税を軽減税率にすることの落とし穴

2012710日の日経朝刊のコラム「大機小機」で食料品に対する軽減税率導入について取り上げていました。その一部を抜粋します。
 【食料品に対する軽減税率を支持する人は多い。各種世論調査でも8割近い人が「消費税率を引き上げるのであれば、食料品に軽減税率を適用すべきだ」という考えに賛成している。(中略)
2011年の家計調査で所得階層別の消費支出を見ると、最も所得の低い第I階級は、可処分所得が月平均203190円で食料支出は4703円である。この金額は所得が増えるにつれて増え、最も所得の高い第V階級は、可処分所得が62204円で食料支出は84219円である。(中略)絶対額で見れば高所得層の方の食料支出金額が多いのだから、軽減税率の適用によって得をする金額も高所得層の方が多くなるのである。軽減税率を適用すれば低所得層(弱者)が助かることは間違いない。国民の目から見て分かりやすいとの意見もある。ただし、それ以上に高所得層(強者)に恩恵を与えてしまうという点を考えると、弱者対策という意味では、必ずしも効率的とはいえない側面もあるのではないか。】

可処分所得に占める食料品に支出する割合は、高所得者(V階級は13.6%)に比べて低所得者(I階級は20.0%)の方が高くなるので、低所得者ほど消費増税の影響を受けるという逆進性の議論に異論をはさむつもりはないですが、この逆進性の議論は額ではなく率で議論していることに注意する必要があります。仮に、低所得者対策として消費増税の影響を排除する目的で、食料品に対する軽減税率5%を導入すると、得する消費税は低所得者では、2,035円【第I階級40,703円×(10%5%)】です。一方、高所得者では4,211円【第V階級84,219円×(10%5%)】も消費税を節約することが出来ます。食料品に対する軽減税率の金額的恩恵は、低所得層より高所得層が受けることになります。食料品に対する軽減税率は、財政悪化の改善策として非効率な側面があることはお判りいただけたと思います。

それ以上に、問題提起したい点があります。それは、益税の問題です。従来から問題とされている益税がより肥大化する可能性があることです。(1)通常税率による課税売上、(2)軽減税率による課税売上、(3)非課税売上と、今まで以上に複雑な区分計算が必要となります。アカウント方式(帳簿方式)による消費税法は、益税を生み出す穴の空いたバケツと同様です。不備な制度をより複雑化する食料品に対する軽減税率の導入は、バケツの穴を更に広げるようなものです。抜け道が判ると、人はそれを利用するようになります。アカウント方式(帳簿方式)による消費税法の下での食料品に対する軽減税率の導入は、意図的益税作りの脱税事業者を作りだすことがあるのではないかと懸念しています。
 
正直者が馬鹿を見ない社会を作ることが大事と考えています。そのためにはアカウント方式を改め、益税を排除するインボイス方式に変更すべきです(インボイス方式の議論は、第2回記事「消費増税による1兆円の益税は誰の手に」をご参照ください)。

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